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    2017

08.09

書き方習ってます




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「どうして勝手に戸棚を開けたんだい?」
「え……だって、それは」
 急な話の転換に私はびっくりして、どうしていいのか分からず、助けを求めて周囲を見回した。
「だってはなし。口答えはなしだよ」
「最初から開いていたのよ。鍵がかかっていなかったの」
「口答えは?」
「あ……、なし……」
 私は、うつむいた。心臓が早鐘のように鳴り、お腹の中に熱いものが膨れ上がってきていた。頬が熱い。叔父がなにを始めたのかすぐに分かった。
「もう一度、あの時からやりなおそう」
 叔父は、私の腕をとり、ピアノ室へのドアを指し示した。そこには、壁にしつらえたあの薄い戸棚がある。多分、中には、前と同じ道具たちが並んでいるはずだった。
 ドアを閉める時、ぼわんと空気が閉じ込められる圧力が体を押し包む。ピアノの音も、悲鳴も、そして悪いことをした娘も、その部屋に閉じ込められたのだ。
「ベントオーバー」
 口数の少なくなった叔父は、震え上がるほど怖かった。私は、叔父が指し示したピアノの椅子に両手をついて背をそらし、お尻を高く掲げた。スカートがまくられ下着が引き下ろされる。ひんやりと外気があたり、初めて叔父の前に何もかも晒していると思うと、恥ずかしさに目が眩んだ。
 ひゅん。ひゅううぅうぅん。ひゅううぅうぅん。ひゅううぅうぅん。
 うつむいた私の耳に、叔父が、ケインで空気を切り裂く音が響き渡った。口の中がからからで、膝はがくがく震えていた。ウォームアップのない、いきなりのケインは、初めての経験だった。お仕置きなのだから当たり前なのだけれど、今まで、私にとってのその行為は、結局はごっこ遊びで、一度もお仕置きだった事がなかったのかもしれなかった。
「ワンダース」
「えっ、そんなに、一度にたくさんなんて。」
「薫、口答えは?」
「あ、なし、です。ごめんなさい……」
 そして、十二回の切り裂く痛みを、私は、ピアノ椅子の縁を握りしめ、椅子の冷たい皮に剥き出しのお腹を押し付けることで必死に耐えた。最後の方は涙が溢れ、一打ごとにとびあがり、悲鳴をあげていたかもしれない。
「姿勢を崩さないで」
 赤く腫れてずきずきと脈打つ肌に叔父のひんやりと冷たい手が触れてくる。
「薫はこれが好きなの?」
「好き」
 叔父さんが。好き。
「もっと、叩かれたい?」
 私は、泣きながら、頷いていた。
 ラケットのような形をした革のパドルが戸棚から取り出され、その奥に並んで吊るしてある同じような木のパドルを見た時、このお仕置きが最後はどんなものになるのか予想がついて、私は青くなって膝立ちのまま後ずさりした。
 叔父は黙って待っていた。私が、元のポーズに戻るのを。私が自分から彼の掌の下に来るのを。
 ずっと長い間、夢見ていた。叔父と手を繋ぎ夕日の山道を降る景色が脳裏をよぎった。茜色の夕日が沈んでいく海を見ながら、あの岬にマリア様が立っていると叔父が語ってくれた時の夢。
 子供の足には下り坂をゆっくり降る事はむずかしくて、叔父の手にしがみついていなければ駆け足になってしまった。走っては、また、叔父の場所まで坂を登る。無条件で差し出される微笑みとその手に、とびつくように両手でぶら下がったあの日。
 波状に襲ってくる痛みと涙の向こうにぼやけた風景。絶対に自分からごめんなさいと言うもんかという反抗心や大人としてのプライドは、あっけなく突き崩され、止めどもなく口から溢れる謝罪と懇願に埋め尽くされる。ごめんなさい。許して。もうしない。もうしない。もう、決してしないから。
「どうしてあの扉を開けたのか言いなさい」
「知っていたの。あの中に何が入っているか。よく見てみたかった。あの道具でなにをするのか知りたかった」
 さんざん、悲鳴をあげた後に、涙と汗でびっしょりと濡れ鼠のようになった私はようやく素直になって、懐かしい叔父の腕の中で、手放しでおいおいと泣いた。禁じられた扉の向こうに、私は、今抜け出ていた。
「さあ、これで、君は、新しいスタートを切るんだ。もう、失ったものを振り返るんじゃないよ」
(本文より)





↓鹿鳴館サロンのHP
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↓鹿月舎のHP
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 鹿鳴館で、書き方の練習を受けています。一向に上達しないのが、御教示くださってる執事に申し訳ないのですが。そして、何を書いてもスパンキングやSMの話になってしまいます。かなり、他の話も書こうと努力しているのですけどね。
 それというのも、執事がいけないんですよ。執事は、たった一人、この話を読ませたい人を思い浮かべて話を書きなさいというんです。すると、私が思い浮かべているのは、言うまでもないあなたなのです。私はいつもあなたに向かって話を書いているのです。だから、うんと遠回りをしても、近道をしても、そこへ戻っていってしまうのですよ。
 私が、さびしくてただ一人眠れない夜を、ネットのページをめくっていたあの日からずっと。
 mixiにアカウントがあれば見れます。ちょっとページをめくるのがめんどくさいと思うけれど、mixiのコメントは2,000字ごとになっているんですよね。だからこまぎれです。がまんして読んでいただけたら幸いです。なにしろせっかくあなたのために書いたのに、気づいてもらえないままなんてさびしいですから。


思い出の灯火に

起1  起2
承1  承2
転1  転2  転3
結1  結2  結3  結4

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    2015

11.08

死んでいるから心配ない


山にこもってはいけません
誰にも会わず
誰にも話さず
己の内側だけを見ていたら
いつかはショートする


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5_592.jpg

海に浮かべると思うのは間違いです
どこまでも自由に
波間にただよい旅をするというけれど

泳げないのだから
高波に引きずられ海の底へ
沈んでいく夕日と 
沈んでいくことになる身体になりかねません

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また 陸をどこまでも進めるものでしょうか
歩けば足は痛く 豆は潰れます

ああ、そう それは足に合わない靴を履いてるから
つま先を切り かかとを削り
歩けなくとも馬に乗れば大丈夫
そして爪先から赤い雫を垂らしましょうか



人は分かり合えるものでしょうか
海の向こうに愛する人がいて
あなたが帰ってくるのを待っている

あなたは土産が無いと言って
道を彷徨い 倒れつきて死ぬ
心はいつも 行き違い すれ違い

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だから この手紙を受け取ってください
理解したと 返事をください
最初に戻って ルーティンしないでください
私が そんなことをすると思ってたのです か?

いや、思っていた
そして、あなたの言葉は聞こえませんでした
最初に一度 最後に一度
大事なことが書いてあっても
真ん中の文があまりに長いんですもの



だから 心を閉じないで
山にこもるよりも
海に漂うよりも
ただひとつ開いた窓を閉じたとしても
悲鳴が聞こえなくなるだけだから



聞いていなかったの?
それは断末魔の叫びで
今 私は死ぬところなのです
死んだ私は にこやかに笑う
それから 戸口のところで手を振るでしょう

だから山にこもるとか
海に沈むとか
足や手を 切り落とし始めたとしても
何も慌てなくてもいいのです

だって 死んでるのだもの
もう心配することはなにもありません






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    2015

11.08

満月


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青い満月
お月さま取って
欲しいから取って

どうしても取って

取ってもらえないなら 
大きな声で 泣いちゃうぞ

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取れないものは取れないし
手に入らないものは入らない
願っても叶わない
祈っても意味は無い

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そんな我儘悪い子は
崖の上から突き落とす

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ごろごろ落ちて
首の骨折って
ペッシャん潰れて思い知る


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↑実際に突き落としの処刑が行われていた
イタリア・ローマのタルペーアの岩




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    2015

11.08

一寸試し






それはやっぱり試してみる他ないと思わなんだか?
それともつらつらと起きうることを並べては
橋を叩いて壊すことに算段していたほうがいいと?

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どっちにするか迷っては・・・ 
どっちをも選ばないでいられるはずだと思い込み
じーっとその身を闇に潜めて息を詰めていても
最後は 息苦しさに 締め付けられて 叫んでは逃げ出す事になる
だったら、一番最初に何も選ばず
なにも受け取らずに散った方がいい

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では はじめよう
よく砥いだ小刀と板の切れ端を用意して
左の小指から順繰りに
そうして木のコブのようになった自分の手を
じっと眺めてから ああ と 涙をこぼしてみる

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出刃包丁は用意したのかい?
いくらなんでもその小刀では 無謀すぎるというものだから
大きなまな板と それから腰紐を一本
そんな面倒な事 今までしたことなかった
振りかぶり 振り下ろす

悲鳴は、耳の奥の巻いている白い貝殻をこなごなに砕く

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ああ ああ ああ ああ

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そこで夢から覚めるのが いつもの常のことなのだから
そのまま悪夢の中へ ささ もっとずっと奥へ

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痛いのは 返ってくるこだまの 重なりのようなものじゃありませんかね
最初よりも だんだんと 遠く 自分の事さえも 思い出せずに
それでも 確実に 近づいてくる そして 遠ざかる
粉々に割った橋と 白い貝殻と そして転がり落ちた先にあった窓ガラスと

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机の上に残された手首は 多分
朝になれば 消えていますって



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    2015

11.08

日常





いつの間にかサディストはめんどくさがり
手に入れるまでは あの手この手
手に入った娘に求めるのは交合だけ
美しく飾りたてた人形にしつらえて 
ただ黙々と咥えさせた後は
戒めを解かれた娘に 世話をやいてもらいたがる

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いつの間にかマゾヒストはただの欲しがり
して欲しい事は いつも同じ
枠を破るのは難しく
毎日の生活は平穏なまま
愛されたいし 大事にされたい
生きていくしんどさを つかの間忘れる瞬間に酔う

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綺麗ね・・・って、言われたい
すごいね・・・って、褒められたい
よくやった・・・と、認められたい
技を競い合い 見せびらかす
我慢比べの人形は ただ 宙で揺れるだけ

夢はいつも一瞬
舞台から降りたら いつもの私
いつもの時間 いつもの空虚さ

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夢見ていた恐怖はどこに行ったのだろう?
毎夜繰り返し 私の憧れを塗り替えてくれた
髪を撫で 抱きしめたその腕で
私に地獄を突きつけた
あの瞬間をもたらしていた悪魔は

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身を縛り付けた軛を 解き放てずに
そして少しずつ滅びていく
憧れも 夢も 現実も


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    2015

11.08

階段



この階段を降りると別れが待っている。
分かっていたので、降りないで登ろうとした。
焦っていたので、滑った。
一番下まで最短時間で落ちた。






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    2013

12.17

舞姫・終章

舞姫・1を読む



 

「痛い・・・」
「痛いのは当たり前だ。尻を叩いたのだからな。これで終わりじゃ無いぞ。レッスンに集中できないのなら、何度でも叩く。叩かれるのが嫌なら、自分の欲望のことじゃなくて、いかに踊るかを考えろ!」

 口答えの仕様がなかった。恥ずかしい。恥ずかしい。と胸につぶやき続けることばかりにかまけて、私は、ちっとも踊れてない。教師が、ラテンダンスに何を求めているのかも考えていなかった。

「初めからだ。」

 初めからやり直し。背中が床に平行になるように、位置取りをやり直す。腰を突き上げて、背中を弓なりにそらす、それから体重移動。右足を踏み出して腰を左へ回すように振る。ルンバは求愛のダンス。エロティックに腰を振り、女の魅力を見せつける。
 しかし、自分の身体が描いているものを、意識から締め出すのは難しい。服を着ていないこと。自分の姿勢が男に見せつけているもの。汗が吹き出し、歯を食いしばらずにはいられない。
「求愛してる女の表情じゃないな。」

 弾かれたように、動きが止まる。次に何をされるのか分かって、私は、どうにかして教師の左腕から逃れようとしゃがみながら、鏡の方へ身体を逃した。だが、あっという間に捉えられ、引き据えられる。罪人のように。リボンにくくられた私は、展翅板にピンで止められた蝶のように、逃れるすべはない。

「誰が、逃げていいと言った?」

 ああ・・、助けて、だれか、助けて。私は目をぎゅっとつぶって今から起こるであろう事に対する怖れと羞恥を締め出そうとした。だが、目を閉じることは許されていない。

「目を開けろ。そして姿勢を正せ。」

 神様、お願いです。耐えられない。こんなこと耐えられません。子供のようにお尻を叩かれるなんて。それも、こんな場所で、こんな格好で。

「躾をされる時の礼儀から教えないといけないのか?逃げるな。姿勢を崩すな。鏡をしっかりと見るんだ。」

 バーを握りしめる手が汗で滑った。肩で大きくあえいだ私は、空気を求めてヒューヒュー言う身体を押さえつける。

「いいか?10回叩く、一発毎にカウントするんだ。最後にはお礼を述べる。いいな。出来るな。」

 出来ない。そんな事出来るはずがない。荒れ狂う思いをよそに、私の身体は、ただこくこくと頷くことしか出来なかった。さっきの痛みがまだ残っている身体をすくませて、落ちてくる衝撃に備えて身体に力を込める。
パシーーーーン!!

「いち・・・。」

絞り出される声は、内心の苦悩を表してかすれていた。自分の腰を抱えている男の着ているスーツに、汗で濡れている身体が押し付けられる。なんという背徳感だろう。自分が裸でいて、相手は服を着ているということが。相手はそこに立ち、私の身体を支配している。
パシーン!!

「に・・・。」

 動けないと言って、動けないことがあろうか。腕をバーに結んでいるリボンは、柔らかく細いサテンのリボン。ムーブの動きを制限しないよう。腕の血行を阻害しないように、ゆるく巻きつけられているだけ。振りほどいて、逃げ出すことは、むずかしくなかった。
パシーン!!

「さあん・・・。」

 男とのレッスンが始まってからずっと、私は恥ずかしさに迷い続けていた。けれど、この羞恥を選びとったのは私。服を脱いでいるのは私。リボンを結ぶように言ったのも私。教師に私に命令する権利を与えたのも私。
パシーーン!!

「よん・・・。」
 明るい教室の中で、生まれたままの身体を男に晒して、私は踊ることを自ら選んだのだ。美しく踊りたいから?友達を追い抜いて自尊心を満足させたかった?自分の踊りに足りないものを見つけたかった。いや、それだけじゃない・・・。
パシーーン!!

「ごおっ!」

 あの空き地で、私は、男の腕の中でずっと求めていたものを見つけたのだ。なにかぽっかりと自分の中に空いている穴。何をしていても虚ろで、何をしても埋められない。私のいる場所は、ここではないと感じる落ち着かない気持ち。
パシーン!

「いたああいっ・・・!!ろくっ。」

 涙が溢れる。この涙は何のために流されているのだろう。痛みによる生理的な涙?それとも、いわれなき暴力にさらされている自分を哀れんでいるの?今は、ただ、相手の腕から逃れ出たい。残りの4発を耐え切る自信もなく、その気概も残ってはいない。無意識のうちに、身体が逃れようとしてもがく・・・。姿勢が崩れる。

 あがいてる私をじっと見つめている男。何も変わらない。最初からなにも・・・。私は、真実から目を逸し、綺麗事の中で美しく咲こうとしている温室の花だった。
 足を踏ん張り姿勢を戻すまで、男は、私が観念するのをじっと待っている。
パアーーーーーン!!!

「ひいっ・・!な・・・なっ。」

 膝が緩む。地面が崩れていく感覚に襲われて、もう一度、身体を引きずり上げて足を踏ん張るった。痛い。後二発が途方も無い責め苦のように感じる。最初の何も考える暇もなく終わった十発もこんなに痛かったのだろうか。それとも・・・。
バーーン!!

「やあっつ!痛ぁい・・!」
 
 なぜ、私は、未だここに立ち続けているのだろう。痛みに切れ切れになっていく自尊心を抱えながら。この苦痛の後に待っている。再現の無い羞恥。そしてまた必ず打たれる。何度でも。何度でも。彼を満足させる踊りを踊れるまで、私は、打たれ続ける。それが、うまくなることに繋がっていくなんて、かけらほども信じていないのに。
パーーーーン!!

 「ここのっつ・・・。」

 いつか夢見ていた。なにも考えず、何も迷わず、なにも疑わず。ただ、信じる事。自分と現実の間にあるズレが少しずつ修正され世界がクリアになること。自信をもって次の一歩を踏み出すこと。顔をあげて、胸をはって。そして、その凛とした自分は、美しいが故に、誰かの腕の中でもみくちゃになり、ずたずたに引き裂かれる。その運命もまた、自分で選びとったもの。自分で掴みとったもの。
パアアアアアアアーーーーーーーーン!!!

「とお・・・・・・・・っつ。」

 音が消え。男の身体がふっと自分から離れていくのを感じた。左手に巻かれていたリボンがするりと解かれ・・・床に滑り落ちる。

「10分休憩。その後は、もう一度初めからだ。」


 身体が力を失って、ペタンと床に落ちる。濡れた性器が床にあたってペチャリと恥ずかしい音を立てた。右手のリボンはまだ残ったまま。でも、自由になった左手が、不自由ながらも、それを解く役目を果たすことが出来るはずだった。
 けれど、また、最初から、手をバーに差し伸べる所から、姿勢を直し、腰を突き上げ・・・そしてまた始まる。右に左に身体を揺らして。求愛のダンス。男を蠱惑し、そそり、誘うダンス。触れて欲しいと願いながらも、じりじりとその身を焦がし続ける。

 同じ空間に男が居るのにも構わず、私は自由になった右手を、自分の性器に埋める。くちゃ・・っと淫猥な音がして、私は、自分が打たれながらも興奮していたことを確かめた。男にも。自分にも。それから腫れ上がって居るであろう熱くなっている尻をそっと濡れた手で撫でる。もう一度。初めから・・・。おずおずとあげた視線の先にバーに肘をかけて、鏡によりかかり、覚めた目で見つめる男がいた。





 私は痛みに弱かったのだろう。それからは一層練習が辛いものになった。持ち上げられ落とされる。そして、また急上昇する。その乱高下に私は、耐えられず何度も許しを求めて泣いた。そして、叩かれる事が、苦しみだけではなく、恐れだけでもないことが、尚更私を追い詰めた。
 叩かれて熱くなるのは打たれる尻だけでなく、空気に晒されている性器も同じことだった。教師は、思い出したように、打った掌を返すと、そこを撫で上げる。私は、その不意打ちにいつも叫び、その手から逃れようと悶えながら、一層そこを押し付けていた。
 レッスン、レッスン、そしてまたレッスン。打たれ、むき出しにされ、晒され、磨き上げられる。ステップ、ムーブ、ステップ。繰り返される単調な動き。腰を回す。足を開く。押し付ける。熱い下腹を。そして、そんなある日にそれは突然やって来た。

 ブルース、ワルツ、タンゴ、クイックステップ。誘導するのは腰骨の接している一点。相手の上質なスーツに触れる私のむき出しのそこ。私は、繋がれる。その一点で。相手の意のままに、連れて行かれる。押す、引く、回る、その一点を軸に。回る。回る。回る。

 混乱しカオスのようだった私の意識が段々とそこへ集まって、集束し、相手が私を導くその一点に、自分の体の動きとバランスが、そして広げるだけ拡げたはずの欲望が順番に端から折りたたまれるように幾重にも重なり、集まってきたのだ。そしてむき出しの性器がその一点の下に恥ずかしくあからさまに、開いたり閉じたりしながら水平に回っていた。
 身体の中から沸き上がってくる熱が、その周りを取り囲み、収縮する性器の中へ流れこんでいく。それとともに絞り込むように快感が私の体の芯を突き抜けた。
 私は、薄いももいろの雲の上を回りながら進んでいく、性器を持っている私という女。その女を、私自身の視界は、空の上から見下ろしていた。喜びと解放が一度に私を捉える。どこまでも自由に身体の枷から逃れ、空の果てへ向かって。

 回る。回る。回る。

 そして花火のように火花が散り、音楽が最後の和音を引き、私達はホールの端で静かに止まった。

「解ったようだな。」
 はっと、気がついて男を見上げる。エクスタシーの余韻に、私の身体はほてり、意識は、まだふわふわと漂っていた。

 教師は礼儀正しく、右手で私の身体を少し押しやり、そして、軽く会釈した。
「レッスンは、終わりだ。後は、精進あるのみだな。」

 私は呆然として男を見つめた。
「先生・・・・それって、もう、私に教えてくれないってことですか?」」

 歩き始めていた教師は振り返り、私のぽかんと開いた口を見た。
「君は、性の喜びを知った。これからは、もっとうまく踊れる。私が、君を初めて逝かせた時に言ったのは、ただ、それだけだ。」
「え?でも・・・でも・・・。」
 唇を噛んで、急に溢れでた涙を私は押さえつけた。ようやく掴んだ幻のような風景なのに、その雲の上から、急に突き放されて地上に落とされたような気分だった。迷子になりそうな心細さが私を襲った。両手をみぞおちの前で握って、私は、何か言わないといけないという焦りに、おろおろとしていた。
 その時、今までほとんど表情を変えなかった男がふっと笑った。私はびっくりしてそのほほ笑みに見惚れていた。右手が伸ばされ、私の頬を撫でた。春の日差しのようなぬくもりが一瞬私を包こみ、そして、風にのって消えていく。

「うまくなれよ。」

 それが終わりだった。ダンスの教師は踵を返し、二度と振り返らずに教室を出て行った。ドアが閉まり、ガランとした寒い教室に私一人が取り残された。視線をあげると素裸の女が鏡の中にぽつんと立っていた。私は、その女を見つめた。
 今。たった今。天国を見て、そして追放された女。
 下腹に力を入れると、きゅっと締まったあそこは、喜びの余韻と雫を涙のように太腿に垂れ流した。あんなに嫌でならなかった裸のレッスン。身体に触られること。打たれる痛みと恐怖。そして、今でも、決して自分から望んでいたはずではなかったのに、私は・・・。
 望んでいたのは・・・ただ、うまく踊ること。

 私は脱ぎ捨てた服のところへ歩み寄り、白く、そそけだった身体を布の中に押し込んだ。

 愛が終わったわけでも、失恋の涙にかきくれたわけでもない。彼は今でも、私の通うダンススクールに教師としている。私は、競技会で一緒に踊るパートナーを作った。彼は7つ年上で、たいそう優しい。レストランで椅子を引いてくれ、そつない会話で笑わせ、熱いまなざしで、じっと見つめてくれる。そして、私は、たまにくるくると回る踊っている人の向こう側にあの黒い影が立っているのを見つけた。

 それでも。

 時々私は夢を見る。その夢の中で、男は、私を決して立ち去らせはしなかった。そして、雲の中で、私は、囚われた喜びに息絶えるのだった。



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    2013

12.16

舞姫・6

舞姫・1を読む



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「ムーブだ。」
 命じられるままに、私は右足を右に出し体重を移し替える。左足を揃えて踏み変える。そしてまた体重移動。それに合わせて腰を右へ左へ振る。教室という広い空間に向かって、私の性器は、突き出され、あますところなくさらされている。
 教師が、自分の後ろではなく、自分の脇に立っていることだけが、今の私の、すがるべきたった一本の望みだった。少なくとも今は、彼にその恥ずかしい部分を見られているわけではない。彼が観ているのは鏡に写っている私の紅潮した頬と、うろたえて泳ぐ視線と、そして誘うように大きく動く背中やお尻だけだった。
 一番肝心の部分を隠すだけのために、もっと恥ずかしい自分の心の中を覗き見られているその感覚に、私の喉は干上がり、身体を支えようとバーに伸ばされた腕は震えていた。

 自分が体重を移し、尻を振る度に、空気に触れてしまう、しまい込まれているべきものの入り口が開き、閉じ、独立した生き物のように口を開け、あえぐのが分かる。私の意識は、そこに集中し、思わず目を閉じて、その感覚を味合わずにはいられない。

「目を閉じるな。」

 予想していた要求だったから、すぐに目を開いた、目の前の鏡を見つめる。ぽってりとしたくちびるを微かに開き、欲情に濡れた瞳が自分自身を見返していた。羞恥心にあぶられるようだった。

 突然、男の手が冷たい尻に当てられたと思う間もなく、その手が上がり振り下ろされた。パーンと、乾いた音が、教室に鳴り響く、私は、ショックでびくっと引きつけしゃがみこんでしまった。尻を叩かれたのだ。私の左側に立っている教師にとって、突き出したその尻は男にとっては、格好の標的だった。

「立て。姿勢を戻すんだ。」

 その言葉に、身体は、反射的に従った。毎回のレッスンで、逡巡すればするほど、泥沼に落ち込んだように、男の要求している行動を行うのが難しくなるのは分かっていた。でも、今は、それだけではなかった。生まれて初めて、まるで子供が折檻を受ける時のように尻を叩かれたのだ。頭の中は、ショックでまっしろになっていた。

「何を考えている?自分が何のためにステップを踏んでいるのか、いちいち教えてもらわないといけないのか?」

 息を飲んだ。そう、今はラテンのレッスンの最中。最も基本中の基本である足の踏み変えに腰の動きと体重移動を合わせようとしているのに、私は、伸びたり縮んだりしている身体の中心の事ばかりを意識していたのだった。

「口で言うよりも、身体に教えこんだほうが早いかもしれんな。姿勢を崩すなよ。」

 何をするのか考えるまもなく、男は左腕で私の腰を抱え込み、一発叩かれただけでじんじんと赤くなっているそこへまた掌を振り下ろした。
パン!パン!パン!パーン!!
乾いた打擲音が教室に鳴り響く、一発毎に身体に染みこむように痛みが増していく、なにも考えられなかった頭が動き出し、起きている事を認識して、その痛みを感じ、おかれている状況を把握し始めたときには、すでに、10回の打擲が自分の身体に真っ赤な痕を残していた。





続く・・

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    2013

12.16

舞姫・5

舞姫・1を読む



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 何度目のレッスンだったのか、毎回、毎回、回数を、数えるのをやめた頃。ラテンのムーブメントの基礎を復習した。そのダンス教室の方針で、モダンラテンに関わらず、基礎のダンスはどれも踊れるよう練習するようになっていた。どちらかを選ぶのは上級に上がってからで、どちらも選ばずに10種目を踊り続ける人もいる。ただし、競技会に出るほどになれば、話は別だ。体力が続かない。
 ぴったりとくっついて、腰を押し付けてくる相手のリードに任せておけばいいモダンダンスと違って、ラテンでは、頼るのは、自分の右手を握っているパートナーの右手である。踊るのは、自分自身で、お互いの身体は、離れたりくっついたり、回ったり、お互いの顔を覗きこむようにして、身をくねらせてみたりするそれをリードするのはその握られた右手のみ。
 思い切りが悪く、男に愛を語りっける事など、露ほども考えてもみなかった私にとっては、ラテンは苦手だった。
ましてや、今は、丸裸なのである。腰をくねらせる体重移動もままならず、震える足を踏みしめるのがやっとの思いだった。お互いに目を合せ、身体で愛を語り合う。その愛情をどうやって表現していいのか分からなかった。

 教師は、最初、しつこいくらい私に、ルンバの基礎を繰り返させた。けれど、ちっとも私が踊れないのに、いい加減痺れを切らしたのか、違う方法を考えだした。

 教室の壁は上から下まで、全面が鏡に覆われていた。自分で、自分の姿勢や動きをチェックするためだ。そして、その鏡の上下を2つに割る形に、手を乗せる支えにするためのバーが張り巡らせてあった。男はそのバーに手を乗せるように言う。右と左の手をやや肩幅より広く開きバーを握らせたのである。そしてうんと身体を引き、手首と方と背中が弓のようにたわむように、足を開き、腰を突き出させた。
 その姿勢が、女の何を露呈するか、考えなくてもお分かりであろう。私は、腰を引っぱられたとたんに、きゃっ!っと、叫んで、そこにしゃがみこんでしまった内臓の一部のように花開きかけているその場所を、自ら晒すなんて。服を脱ぐ事すら、唾棄していた私にとって、そこを突き出す姿勢の事を考えるだけで、パニックを起こしてしまっていた。

「どうした。姿勢を戻すんだ。」

 真っ赤になった顔を打ち振る。そんなこと!そんなこと出来ない。

「出来ません・・・。」

 絞り出した声は情けないほどに力が無く、うちしおれている。しーんとした教室に、教師が鏡をコツコツと叩く音が響いた。額に落ちかかる前髪を右手で描き上げると男は、一歩下がり、平静な声で告げた。

「では、やめるか・・・。」

 教師にとっては、私が憧れていた芯の強い女性のエロティックに踊るダンスを私が踊れるかどうかは、些細なことでしかないのだ。だから、事ある毎に、彼はそれを持ちだした。「レッスンをやめる」と、言われると、私は、泣きながらも、続けてほしいとねだるしかなかった。彼に、それで、脅してるつもりがあったのかどうか分からないけれど・・・やめたからと言って、彼は毛ほどの痛痒も感じないのだ。実際、私のような小娘の裸を観たからどうだって言うのだろう。多少は嫌がるさまが、からかいがいがあり、悲鳴も聴けるだろうけど、だからと言って、抱けるわけでもない。黒い男は、憎らしいくらいに、私の身体を欲しがらず、私一人がじりじりと欲望に焼かれるような毎日を送っているのだ。

 それでも、私は、彼にダンスを教えてもらうためにここにいる。そして、声をかけてきたのが向こうである以上は、少しくらいは、私のダンスに興味を持ってくれてるはずだ。
 そして、ここまで、恥を晒して泣きながら必死にレッスンをこなしてきた私は、もう、後に引けなくなっていた。そんなことをしたら、今までの事は全て無駄になってしまう。恥ずかしさに耐えて服を脱いだことも、無垢な身体を彼に自由に触らせたことも。

 震える膝に力を込めて、私は起き上がり、バーを頼りに体重を預け、最初に支持された姿勢に戻った。胸は高まり、恥ずかしさに身体中が赤く染まっていたと思う。頬はほてり、心臓は口から飛び出してきそうだった。
 すると教師は、私の手首に赤いリボンの切れ端を乗せた。私は、涙で潤んだ目でそのリボンを見つめた。つるつるとしたサテンのリボン。1.5センチほどの幅で、柔らかくなんの力もないように見える華奢なリボン。そのリボンがくるりと手首を2度周り、同時に私の手首をバーに縛り付けたのである。
 私は息を詰めて、起こりつつある出来事を心の中で反芻する。今は、片手に回されたリボン。しかし、両方をくくられてしまったらどうなるのだろう。私にはなんの選択権もなくなり、相手のなすがままになってしまう。私は、思わず男の顔を振り仰いだ。
 反対側の手首に同じように、リボンを乗せて、男は私の顔を覗きこんで来た。

「どうする?」

 どうするって・・・。どうするって・・・。両手をバーに縛られてしまえば、素っ裸なのだもの、男のしたい放題だった。極端に言えば、そのまま鏡に押し付けて、犯されても仕方がない。けれど、男の質問は、その事態を、私に選ぶように促してくる。すべてを彼に明け渡し、なすがままに身体を預けることを求めてきている。
 私は、二度口を開け、ためらい、鏡に映る自分の歪んだ頬をちらりと見やった。どうしたい。投げ出して、走って帰る?ダンスを諦める?そうしたら、もう二度とこの男と踊ることもない。恥ずかしい思いもしなくていい。泣きそうなほど辛い事も・・・。
 キュン・・・足の間の性器がイソギンチャクのように窄まり、身体の中を不思議な感覚が突き抜けていく。私は私は、何を望んでいるんだろう。何を望むにしろ、望まないにしろ、選んだのは私。そして、我が身に起こるすべての事が、その私の選んだ結果なのだ。

「結んで・・・リボンを。もう片方も・・・右手と同じように。」

 だとだとしく、口から押し出されたつぶやきを、男は繰り返させることをせずに、ただ、黙って手首に巻きつけて結んだ。縛るというにはあまりにも形だけに見える赤いリボン。しかし、どんな楔よりも深く、私をそこに縛り付けた、私の行動を制限した、逃げられる道を自分で封じたリボン。
 ぎゅっと目をつぶると、涙がこぼれ頬を流れた。




続く・・

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    2013

11.11

風景


考える間もなく ポーンと外へ投げ出された

後悔とか 慙愧とか 愛情とか
考えても 意味は ない

すでに足の下に床は ない

それから ずっと 漂っているのです

地上に上がりたくて
泣いていた時もあったけれど
そうするすべが見つかりません

空の上には海があり
それを分ける地平線は
私の体をまっぷたつ
に 横
切る

だから 手首がないまま 波に流されて
それから 渦に巻き込まれ
しょうこと海底に沈んでいく

底には 人魚が待っていて
失くしてしまったはずの包丁を
返してくれるので
人魚に見つからないように

叫んだりしないで
暴れたりしないで

そっと沈んで行くのが正しいです








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    2013

10.08

舞姫・5

舞姫・1を読む



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 子供の頃の私は大病をして入院したことがある。その長い治療期間を通して私が学んだ事は、恥ずかしいと思う気持ちは、簡単に失われてしまうということだった。幾許かの諦めと慣れと環境があれば、当たり前になっていくのは容易いものだ。

 しかし、何度同じ経験を重ねても、その男との間に私は「それ」を見つけることができなかった。

 目の前で服を脱ぐということの苦痛を2回繰り返した後、私は、教師よりも先に来て服を脱ぐという対策を思いついた。しかし、これがまた新たな苦しみを私に感じさせる事になった。命令されてもいないのに、自分から服を脱がねばならないのである。
 同じ失敗を2度繰り返した原因も、その事を予想したからに他ならない。もしも、彼が脱げと言わなかったら?求められないのに、裸で待っている私を見て彼がどう思うか・・・と、考えただけで、恥ずかしさと逡巡に、脂汗を絞り取るような想いだった。
 ためらい。惑い。血の気の引くような思いをしながら、一枚一枚脱ぎ捨てていく。
 そして、彼がやってくるのを待っている時間の恐怖。
 もし、他の誰かがドアを開けたら?私がそこに裸で立っていれば、言い訳のしようがない。露出狂。だれだってそう考えるだろう。このレッスンが始まる前の私だったら、一目みただけで、走り去り、心底軽蔑するに決まっている。
 それに、たとえ正しく次にドアを開けるのが男だったとしても、裸の私を見て、思うことは同じなのじゃないだろうか。淫乱。すべた。
違う。服を脱げというのはあの男なのだ。だから仕方がない。いいや、仕方なくはない。背を向けて立ち去りさえすればいい。そうすれば、こんな恥知らずな真似をすることはない。けれど、私は、そうしなかった。だったら、服を脱ぐのは、私が望んだ結果なのではないだろうか?そうして、私の思考は、壊れたおもちゃの様に、同じ所を回り続ける。
 ドアのノブが回るのを凍りついて見つめながら、私は強烈な羞恥の嵐にもみくちゃになり、身体の芯が絞り込まれるような感情にとらわれていた。

 ダンスの教師に見つめられる事。そして、その腕に抱かれ、仕立ての良いウールのスーツの中に引き寄せられたり、感じやすい柔らかな部分を撫で上げられたりする事。彼の視線と思わせぶりな素振りは私の羞恥をかきたて、その腕に包まれるだけで、私の身体の中には火が灯り、そしてじわじわと広がる。自らの中にある欲望に、私は茫然とする。それはまるで、呪いのように私を追い詰め、私にはどうやっても拭い去ることが出来なかった。
 いや、むしろいくら拭っても、前よりも強く。前よりも激しく、甦ってくる。正確に踊ろうと集中力を研ぎ澄ませば研ぎ澄ませるほど、私の五感は彼の存在を感じ取る。彼が動くことで起きる空気の渦さえも、私を苦しめる拷問のよう・・・。そして、耳元で囁かれる低い言葉は、私の背筋を震わせ、私はそのあまりの艶めかしさに、相手の背に爪を立てずには、いられないかった
 そして、私が欲情していることなど、男にとっては、火を見るよりも明らかだっただろう。それほど、私は無防備で、小娘だった。男の腕のなかで、男のリードのままに、踊らされる無力な女でしかなかった。

 ああ・・・。下着を付けないで外を歩いたことがあるだろうか。それがどれほど物理的にも性器に刺激を与える行為なのか、経験した者だけが知っている。

 鏡の中に、黒い男に抱かれてくるくると回る自分の裸体を見つめずにはいられない。
 そして、そしてその有り様は、眠る私の夢に、夜毎訪れる。彼の腕の中で、炎に焼きつくされて、白い灰をひらひらとまき散らしながら踊るその女の突き上げる欲望を。現実には、一瞬しか鏡の中に見ることが出来ないはずなのに、夢のなかで私は、その踊りを四方八方から眺めることが出来た。男の腕の中で、喜びと羞恥と欲望に燃え上がり、震える女を見つめることが出来た。

 競技会で、裏の草原に連れだされ、生い茂る草むらの中で、耳を舐められながら達して以来、教師は一度も私を嬲ろうとはしなかった。嫌がらせのように、肌に手を滑らせ戦かせることはあっても一瞬で、唇を這わせようとはしなかった。
 私は、彼の腕の中で、渇望に焦がされながら「触れてもらいたい」と願っては、自らの思いのあまりの浅ましさに、その願いを押さえつける事を繰り返した。そして、焦らされる身体に波状に襲い掛かってくる快感に打ち負かされ、思わず開らいた唇からは、切なさを込めたため息が漏れた。

 私は一体どうなってしまったんだろう。黒い男を愛してるわけでもないのに、なぜ私の身体は私の心を裏切るのだろう。

 男の私の身体に触れるような行為は、確実に回数が減った。そして、男は、私が今まで服の中に隠しこんでいた身体をさらけ出す事に慣れていくのを、じっと見守っていた。



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続く・・


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    2013

09.29

天満月(あまみつつき) 3

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 私は、あの子が初めから嫌いだった。

 お父様の娘だから・・・お前の妹だよ。と、言われても、実感がなかった。その子は、私と同じ年だったし、背格好もあまり変わらなかった。家を切り盛りするのに忙しく、ほとんどかまってもらえなかったとはいえ、柔らかくて、やさしい胸に抱き寄せられると、幸せな気持ちがした私のお母様。その母が、床に伏したきりになってしまわれたのは、その子が家にやってきたからのような気がする。母は泣いて、ご飯も食べずに泣いて、とうとう亡くなってしまわれた。

 黒い髪に黒い瞳、そしてまっしろな雪のような肌にバラ色のほっぺ。砂糖菓子のような甘い匂いをさせて、まるで我が物のように、お母様の座るはずだった椅子にバラのクッションを乗せて座っていたあの子。あの子がうちに来てから、うちの中は暗く、誰一人笑わない。お父様を除いては。

 なにか怖い。女中たちの言う事は皆同じ。分からないけど怖い。こっそりと廊下でする立ち話。ふと見つけたここにあるはずのない道具。そして、振り返ると必ずあの子がいる。
 女中たちはちりぢりになり、後にはゆっくりと部屋を横切って行く黒く長い髪の毛が揺れる様がみえるだけ。いつもどこからか、いつも音もなく忍び寄り、そして急に最初からそこにいたかのように、消していた気配がはっきりと分かり、女達はみな悲鳴をあげた。

 震える指でばあやが私の服の裾を引く。
「お嬢様・・・。」
 母のいなくなった家に、留守がちなお父様。館はあまりにも広く、そして部屋のすみや物陰はあまりにも暗く感じた。私は、眉を寄せて、年寄りの手を握る。大丈夫。私は姉なのだもの。妹の思い通りにさせはしない。

 ある日、神宮から御使いが来た。

 その季節は、一年に一度、宮に巫女として務める女性を、そうしてもしかしたら媛巫女として神に嫁ぐ娘を探す時期だった。小さい頃から、掌中の珠のように甘やかされた私は、自分が選ばれない事など、これっぽっちも心配していなかった。お父様の権力は強く、大きな軍隊も持ってらっしゃる。私は美しいし、頭もいい。家族も親族も一応に信心深く、使用人たちも大切にされている。
 小さい頃から蝶よ花よと褒めそやされて、育った私は自惚れが強かった。

 だから

 選ばれたのが私ではなく、あの子だと分かった時に、目の前が真っ赤になり、世界が熱く燃え上がったような気がした。私は、彼女に跳びかかり、馬乗りになり、頬を叩いた。何度も何度も何度も叩いた。
み使いたちは、慄き畏れ惑った。
「なんということを・・・。」
「なんどいうことを!」

「月神に選ばれし、媛巫女に手を上げるなど許されないことでございます!」

 今朝まではこの子は私の妹だったの。しかも、正妻の腹でもなく、街のいやしい女の腹から産まれた。この子が家に来たせいでお母様は亡くなった。私の振り上げた腕をきつく握って、押しとどめた男は、私を懐にしっかりと押さえつけて語りかけてきた。
「鎮まりなさい。あなたのしていることは、この国では重い罪ですよ。」

「罪・・・。」

 振り仰ぐとそこにあるのはあの真っ黒の瞳。磨きぬかれた黒曜石のように、濡れて光るその瞳の中に、部屋の様子が写っていた。怯えすくむ使用人たちと、呆れ戸惑うみつかい達。そして私を押さえつけているみつかいの護衛の衛士の腕の中にしっかりと抑えつけられて、泣いている私。なにもかもが作り物のようだ。そして何もかもが目を閉じればすぐに消えるに違いない。

 私は、顔を覆い泣き崩れた。

 それから何日経ったのだろう。あの子が、仰々しい迎えの輿に乗せられて連れられていった後に、6人の衛士が残り、私は鞭打ちの刑を受けることになった。媛巫女に手をかけるという、「罪」に寄って。

 前庭に石の卓を引き出し、衛士は私をそこに縛り付けた。上半身を裸にして。

 領巾を剥ぎ取られる時に見つめる卓の上に、春の柔らかい日差しが反射して光っていた。屈辱は今だけ。打ち据えられたとしても、私は私。負けたりしない。押し付けられた石は、ほんのりとしたぬくもりを伝えた後、すぐに石の本来の冷たさへと戻り、私の体温を奪っていった。手足の先から冷たさが這い上がる。
振り上げられた鞭は、私の体を鋭い音を立てて斜めに引き裂いた。私の悲鳴は、絞め殺される鵲の悲鳴のようにかすれて消えた。

 刑が行われている間、私はただ、数を数え続けていた。他に耐えうるすべが思い浮かばなかったのだ。運命が私にくだされた悲しみと虚しさを。湧き上がる怒りと悔しさを。そして、見据えることができなかった。今までの人生のすべてが砂の用に崩れ去っていく様を・・・。



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    2013

09.23

天満月(あまみつつき) 2

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DSC_0094_20130909130515b23.jpg




 「少将様!大変です。佐保の媛様が、佐保の媛様が・・・。」

 入り口を入った途端に、弾けるように転がってきた「みくし子」に、しがみつかれた綾野の少将は、手に持っていた、弓矢を式台の上に放り出して、草鞋を解くのももどかしく、下足のまま宮の回廊を駆けあがった。
 駆けながら、思ったのは、ただ1つだけ。「もう、間に合わない。」と、言うことだった。心は逸るのに、まるで水の中を掻き分けていく時のように、身体が思うように動かなかった。女達の鳴き声が御簾を落とした暗い部屋をひたひたと満たしているのが分かった。

 なにが起きたのか、聞かずともしれている。まなこの裏によみがえるのは、7つの宮の見回りに出かける少将を、御簾のうちから見送ってくれた媛のほのじろい微笑みだった。普段は、めったになさらないのに、自分が階段を降りて行く間、じっと見送ってくれて、振り返ると小さな白い手の先を、袖の中から出して、振ってくれている主の姿が見えた。

 戻ってくるのは7日後だから、特別に・・・とも思われず、なにかしら胸騒ぎに襲われながらも、それを振り切って出発した。
 なぜ、なぜ、なぜ。なぜ、自分は気が付かなかったのであろう。あの人を置いて、出かけてしまったのだろう。起こってはならない事。たとえどのような手立てを講じても、防ぎきらねばならなかった事なのに。その前兆を見逃してしまった。いや、見ないようにして置き捨てて出かけてしまったのだ。

 彼の媛は、小さく。白く。愛らしい。15歳になったばかりの、幼き媛であった。

 名を佐保と呼ばれていた。
 宮に住んでいるのは、女達ばかりではない。神事のすべてを行う女達とは対照的に、実務のほとんどを引き受けているのは男たちであった。宮を美しく整え、巫女達の身の回りに必要なものを用意し、衣食住共に不自由のないように。その中でも花形の仕事は宮の警備を行う、侍所の武士たちであった。
少将は六宮のすべての警備を掌握する身分にあった。そして、警備といえば一番にくるのが、それぞれの宮の媛君をお守り申し上げることであった。

 幾重にも、仕切りを立ててある、部屋の奥の奥塗籠の中に、佐保の媛はいるはずだった。御簾を下ろし、屏風を回したて、空気すらも動くのをはばかるかのように、清められ、閉ざされているはずの空間。

 しかし、板戸を何度も開け、部屋の奥へと踏み込んだ少将が見たのは、部屋の端に抱き合い、うち付して泣いている巫女たちと、その奥にある奇怪な蔓の塊のようなものであった。部屋の中は清めの火を焚いた時のように熱く、そんな大きな化物のような奇っ怪なものが、生きてうごめいているとは想像もつかぬ、どこか、静謐な空間を作り出していた。
 天井から生え降りてきたのか、それとも、床から。どちらが上下とも判別がつかない絡まりあったその中に、少将は、崇拝していた媛の白い身体を見つけた。

 身に一糸もまとわず、素裸であった。いや、手首の先から、身体を覆っていたはずの、破り取られたかのような袖が絡まりついている。いつもは、美しく梳られて整えられているはずの黒髪も、乱れ、身体に張り付くように絡まっていた。
 その珠のように美しかったはずの佐保の媛の身体は、ふたつに折り曲げられ、覆うように絡まりうねっている蔓の中に閉じ込められている。
少将は思わずに踏み込み、腰に下げた刀を引きぬいた。身体が勝手に、媛を救い出そうと蔓に斬りかかろう としたのだ。しかし、抜いた刀を振りかぶるまもなく、部屋の中で小さな雷がひらめき、少将の体を突き抜けた。両手に掴んでいた刀がはじけ飛ぶ。

 仰向けにのけぞるその真っ青な媛の顔が、ゆらりと向きを変えて、少将の方へと向けられた、眉を寄せて少将に向けられたその苦しげな表情をした媛の身体は、痛みとも、震えともつかぬもので、うねった。

「ああ・・・。」

 蔓は四肢を絡めとり、媛の細いたおやかな身体をねじり上げ折りたたむ。まだ女になってはおらず、少女のように、細い媛の身体が、痛みにねじれる。その白い頬を珠のような涙が滑り落ちた。

「少将・・・許して・・・。」

 苦悶と、哀願と、絶望と、そして諦めと・・・。

「媛様!!」

 彼女を捉えているのは、誰あろう月神の御業であり、真っ白な青みがかった身体にはしる、薄紫や、青みを帯びた打ち傷は、現世に出現した神威の代わりである部屋いっぱいにのたくっている。動かぬはずの植物がずずずっと這いまわり、振り回す度に作られたものであろう。その不気味さ。消えずに残った行灯が部屋いっぱいのそののたくる蔓の影を描き、また、その中で力なくもがく、女の身体の線を映し出していた。

 何が起こったのか聞かずとも分かっていた。媛は・・・穢れに触れてしまったのである。


3に続く


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    2013

09.18

天満月(あまみつつき)


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DSC00075_20130829023058d72.jpg




 いつの頃からなのか分からないほどの昔から国には7つの宮があり、それぞれに、月神に仕えるための巫女が住んでいた。そして、多くの民人の中から、祭祀を司るための特別な娘を選んで、それぞれの宮に祀ることになっていた。娘が選ばれる時は、十になった年の7月で、7つの宮では、一斉に7日間をかけて精進潔斎し、最後の7月7日に、神の花嫁として月神に捧げ祀ることに決められていた。

 神事はすべて秘事であり、民人はけっしてその日に巫女たちが行うことを知ることは出来ず。また、選ばれた媛巫女がどんな役目を果たしているのかも教えられることはなかった。ただ、一の宮は、初めて媛巫女が選ばれた年に住まう宮であり、一年を無事に勤めあげた媛巫女は、二の宮に移る事になっていた。そうやって7つの宮で、神事を行い無事に17歳になった娘は晴れて、人に戻ることが出来た。

 選ばれる娘たちは、国でも評判の美しい娘であることが多い。7年間を宮の奥深くで厳しく躾けられ、神事とともに、歌舞音曲、立ち居振る舞いを学ぶことになるため、17ともなれば花のように美しく、たおやかで優しい娘に育っている。里に戻される時は、過分な持参金をも、もたされることに決まっていたので、多くの有力者たちが競って嫁に貰いたがったのも無理もなかった。ただし、学んだことはともかく、宮でどのような毎日を送ってきたのかは娘たちの記憶から綺麗に拭い去られており、とおの時に、宮へ上がった時のままの無垢で幼い娘のようであった。それがまた、金や身分に瑕のない家の男たちにとっては、掌中の珠のように貴重に思われるのであろう。嫁に迎えた家で、娘たちは屋敷の奥深く囲いこまれるのが常であった。

 17歳の晴れて最後の祭事の折には、媛巫女は、多くの人が群れ集う七の宮の高殿で、月神のための最後の舞を舞い。その晴れ姿は、里の誉れとなり、人々は称え、敬い、畏れ、祈った。七年間の祭事によって、一切の穢れを脱ぎ捨ててきた媛巫女が、地に降り立つ時、国全体の土地は浄められ、そうして、また、いっさいの罪のない清き土地として、命あるものを育て育む事が出来る悠久の平和が国の隅々まで舞い降りるのであった。

 しかし、まったき真円を描く月とはいえど、やがては欠けるのが常の習い。本当に稀ではあったものの、宮の奥深くで守られ育てられた媛巫女も、予定のない穢れに触れて、月神の怒りをかうことが無かったわけではない。過ちを犯した媛巫女は、その歳の祀りに裁かれ、自分の罪を償わなければならなかった。月神の定めによりて、最後の仕置は、それぞれの宮に於いての鞭打ち刑であった。打たれる数は百とも、千とも言われ、それを耐えぬくことが出来ぬ媛巫女は、命を落とすことが多かった。

 媛巫女がその罪故に、死んでしまった場合は、その後はその媛巫女が務めるべき宮は、そのまま、媛巫女がいないままの一年を送ることになる。そうして次の宮へ、また次の宮へと欠けた状態のまま送られる定めになっており、欠けた媛が17になるはずの歳には、地の穢れは祓われず、清められなかった地には、災と悲しみが巡り来ることになっていた。
 民人にとって、祓われなかった年は、媛巫女の喪に服すかのように、暗く、悲しみに覆われた歳になり、人々は歌うことも、踊ることも謹んで、月神の怒りを受けぬように、俯いて、一年をこそりと過ごすしか無かったと言われる。

 里の誉れは失われ、娘を送り出した家は、石もて追われ、娘の代わりに村八分に貶められて、重ねて罪を償わなければならない。それもあって、多くの媛巫女は、行いを謹んで、晴れて無事勤め上げるその日まで、辛抱我慢を重ね、信心深く、月神の愛を七年の間、我が身に頂戴できるように心を込めてお仕えしていたと言われている。





2へ続く
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    2013

03.07

諦め


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怒りは「感情の蓋」

「解ってくれない」
「助けてくれない」
「愛してくれない」

そんな気持ちを怒りの下に隠している
怒りの中の本当の気持ちを見たくない

本当の気持ちが分かっても仕方がない
悲しみや寂しさを確認しても意味はない
行きつ戻りつ
ぐるぐるまわって
絶望にいきつく

そして、諦める

怒りの蓋が強固になって
感情を封じ込める
抑圧する

諦めは怒りのもう一つの表現手段
マイナスを減らすために
プラスを同じだけ引く

そしてようやくデッドゾーンに行きつく
それで、ようやくふりだしに戻る。



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※今日の解決方法 ( 。 ・ _ ・ 。 )つ「手放す」
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    2012

08.01

白昼夢4


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最初から読む

  気がつくと、私は古いビルが作る日陰に、キャリーバックを椅子にして座っていた。辺りを見回しても、さっき入っていたはずの廃屋の病院は見つからない。何度も繰り返した、眠れない夜を埋め尽くした夢。恐ろしさに震えながら、汗びっしょりの身体を、どこもタオルケットの下から出ないように必死に身を縮めていた。誰かが、その浮いたタオルの下にある私の足を掴むような気がして。

 あの病院は、私の夢のなかだけにある。

 汗が引くまで、ぼんやりと、アスファルトの上に日差しが作った影が動いていくのを眺めていた。少しずつ拡がり、なにもかもをその影のうちに取り込んでいく。あの人の闇からもう私は解き放たれてしまった。もうあの人は、あの駅のマンションには住んでいない。もう私は、あの夢を懐かしむことはない。
終わったのだから。

 弾みをつけて立ち上がると、腕時計を見た。大幅に遅刻してしまいそうな気がして、慌てて携帯を取り出す。「ただいま駅から歩いている途中なり。お損なってごめん。」携帯を閉じると、ガラゴロと音を立てて重い荷物を引きながら、私はまた歩き出す。曲がるはずがなかったまっすぐな道へ戻るために。目的地に辿り着くために。

 そういえば、今日は、あのゴム鞭は置いてきてしまった。



 この物語はあるサロンの書き方講座から生まれました。起承転結の物語の起と承の間に、サロンの執事さんが短い文章を書いてくださいます。その文章を受けて承転結を書く練習です。執事さんは、以前SM雑誌の編集をされていた方です。
 この文章は、起承転結の4つの部分の長さがアンバランスであるというご指摘を受けたので、次回伺って、今度は、文章の削り方について教えてもらうことになりました。うまく行ったら、またご報告いたしますね。
ヾ(@⌒▽⌒@)ノ

 画像は4枚とも、行列のできる縄師さんと呼ばれるほど、受け手にとって気持ちのいい縄をされる、エロ王子さんのブログからお借りしてきました。ありがとうございました。

↓鹿鳴館サロンのHP
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↓鹿鳴館のHP
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    2012

08.01

白昼夢3


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最初から読む

 その鞭は、自転車のタイヤのチューブに使うゴム板を2センチほどの幅に切ってあるゴムで出来ている。ホームセンターへ行くと一束280円で売られている。トラックの荷台の荷物が落ちないようにかけるためのゴムだ。そのゴムを適当な長さでくるくると巻き、一箇所をパンの袋の口を縛ってあるようなビニタイでまとめて止め。もう一度そのビニタイで、止められた場所を二つ折りにして巻いてあるだけの鞭である。
 そして、この鞭は、音があまりしない。多分バラ鞭のような構造になってはいても、短くくるくると巻かれているせいなのだろう。その代わり外すこともない。自分の手の延長線のように振った所へそのまま打ち付けられる。肉を打つバチッという音が弾けると、表皮の上を熱くて鋭い痛みが、ぱあっと拡がる重さはないので、奥までは届かないが、続け様に打っていると重なっていく広がる痛みが共鳴しあうのが分かる。
 私はその鞭の一振り一振りに、身体を跳ねさせながら、小さな悲鳴を上げながら、ベッドマットにしがみつくように爪を立てていた。背中にもお尻にも交差し肌を埋め尽くす痕が浮き上がっている。

「上を向け。仰向けになるんだ。」
 男は冷たく言い放つ。私は、一言もなく、ただ上がっている息をつきながら身体を反転させた。手首の一つでも縛ってもらっていたらもっと違った展開になっていたかもしれない男は。私を縛るのを面倒がった。縛られた女は自分では動けない。それがまた面倒なのかもしれない。
 仰向けになれば打つ場所は決まっている。横に流れて力ない胸と醜く段をつけた白いうねる腹と。彼は、ただ黙々と私の身体の上に腕を振り下ろす。さんざん打ち尽くされて、しびれるような熱さになっていた背中とは全く違う。新しい皮膚に新しい痛み。
 歯を食いしばっても、声が漏れる。痛みが身体に刻み込まれていく。身体を捻り、悶えさせている私の足が緩んだ。

 すると男は、その足の間の一度も打たれたことがない場所をめがけて鞭を振り下ろした。

 叫び声を上げたことすら気が付かなかった。身体を縮め、熱く焼けるような痛みが拡がって消えて行くのをただ待っているだけしかできない。子供のように小さくなって、丸く小さなひとつの珠になって。消えてしまえたらどんなにかいいのに。
「ほら、足を開くんだよ。」
 男は、自分の足でもどかしげに私の足を蹴り広げた。恐ろしさのせいで恥ずかしさなんて意識する暇もなかった。
「いや、痛い。」
 なんとか足を閉じようとしても、膝の内側に入った男の足が容赦なく足を押さえつけている。
「ここ、打つぞ。」
「や・・・」
「何回我慢できる?」
 男の中では、その柔らかい粘膜を再び打ち据える事は、すでに決まった事のようだった。
「何度だ?」
「じゅっ・・・五回。」 
「十回だ。」
「やだっ・・五回・・。」
「十回だ。ほら、足を拡げないか。自分で数えるんだぞ。」
 私は、魅入られたように震えながら足を開いた。少しずつためらいながら。男の足がその間に入り、閉じられないようにこじ入れられた。ヒュッ・・・。黒いゴムの塊が落ちてくるのが見える。私は、思わず目を瞑る。
ビュッ!!

 焼け付くような痛みというのをご存知だろうか。日頃感じることのない、破裂するような衝撃による痛み。一瞬で弾けて皮膚の上を焼き尽くしていく。
「あああああっ!」
叫んだ時に吐き出した息を大急ぎでもう一度吸い込み、自らの身体を硬くしてその痛みをやり過ごそうとした。ドット汗が噴き出してくる。
「い、一回・・・。」
 その痛みが治まらないうちに、次の鞭が噛み付いてきた。私は、のけぞって、その痛みを受け止める。
「ひぃやっ・・・二回・・・・。」

 部屋の壁を意識していた感覚がどんどん薄れて、部屋が拡がっていく・・。闇が拡がっていく。外側に広がる意識と、身体の奥に縮んでいく想い。その間を切り裂く純粋な痛みに私は身体をのたうたせる。6回目を数えた頃だろうか、鞭と鞭の間隔途切れて、私は、目を開けることが出来た。逃げる事を許さないかのように立ちふさがる男の身体。そして、見降ろしてくる何もかも受け入れてくれる優しい目。そして、珍しく勃ちあがったその身体から、先走りの滴が私の上に滴った。

 興奮している。

 私を打って。この人は興奮している。私が悲鳴をあげ、痛みにもがき、その身体に浮かび上がる赤い縞模様を見て興奮している。白い闇が外側から縮んできて世界を埋め尽くした。なにもかもが、今日のこの瞬間のために会ったような気がして、私は涙を吹きこぼして泣きながら叫んだ。
「じゅっ・・かー・・い。」

 満ち足りた。完成した。許された。贖罪は果たされた。


4へ続く・・・
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    2012

07.31

白昼夢2

 この物語はあるサロンの書き方講座から生まれました。起承転結の物語の起と承の間に、サロンの執事さんが短い文章を書いてくださいます。その文章を受けて承転結を書く練習です。執事さんは、以前SM雑誌の編集をされていた方です。

最初から読む



 見慣れない建物のはずなのに、それを知っていると思うのも私の悪癖のひとつ。そして、思い込みが多いのは迷子になる人の特徴。
 でも、その大きな建物には確かに覚えがあった。子供の頃、悪いことをすると親が「そんな子はあそこの幽霊病院に入れてしまいますよ」と、脅したところの廃屋だ。私は建物の前でキャリーを止めてしまった。入りたい。でも、そんなところに入っている時間はない。ただでさえ迷子で予定の時間が大幅に狂っているのだ。だいたい、廃屋だからって入っていいというものでもない。でも、やっぱり入ってみたい。
 そのとき私はその廃屋が子供の時に見た記憶のままであることの不自然さには気がついていなかった。





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IMGP4517.jpg



 入り口を入るとそこはガランとしたホールだった。置き捨てられた壊れかけた家具や、外れてしまった建具がそこかしこに立てかけてある。割れてしまったガラスの窓には外から板が打ち付けられていて、その隙間から細い日の光が漏れているだけなので薄暗い。足元には、たまに入り込む人達がそこここで、コンビニの弁当を食べたのか、ビニール袋やプラスチックのトレイや潰した空き缶が散らばっていた。
 病院によくあるカウンター式の受付、そしてその向こうに真っ直ぐ行く通路と右へ曲がる通路が伸びている。診療室のドアが等間隔で並んでいる。

 私は落ちている物に躓かないように、足元を確かめながらそろそろと進んだ。キャリーバッグは、玄関のところに置いてきてしまった。それを引いて歩けるような床の状態じゃなかったから。
 なにもないところで転ぶことが出来るのも私の才能。障害物がある時はよけいに・・・。まっすぐ伸びている通路に並ぶドアは壁と同じようなグレイの合板のドアだった。いかにも病院の診察室。多分その向こうには机と診察用のベッドが同じようにならべられた部屋が並んでいるのだろうと想像させるような。突き当りの出口に小さく開けられた四角いガラス窓から外の白い光が差し込んでいる。
 反対に右側はどうだろう。明かり取りになる窓もなく、並んでいるドアもそしてその向こう側も、ねっとりとその場所にうずくまっている闇の中に消えて行っている。
 行きたくないのに、惹きつけられるように、私は右へ曲がってしまう。

 小さい頃からの私の定番の夢はいつも同じ。

 殺される夢。殺す夢。

 たとえば、階段を転げ落ちて縁側のガラスに突っ込む夢。まぶたの上から血がしたたり、真っ赤になった世界の向こうから包丁を持った母がゆっくりと降りてくるのが見える。私の手首を切り取りに来る母が。
 殺す夢はもっと悪い。鉈を振りかぶって打ち下ろす。何度も何度も何度も。私の心を埋め尽くすのは怒りだけ。してはいけない事をやっているのが分かっているのに、背中を這い上がる、せり上がってくるような、締め付けるような何かに追いかけられるように。私は父の体に鉈を振り下ろす。

 そして廃屋になってしまった病院の中の通路を歩いている夢。突き当たりにあるのは黒い大きな石の扉。その中に私を生きながら臼で轢き殺してくれるあの人が待っている。顔を持たないあの人は、懐かしく、恐ろしく、そのゴツゴツと乾いた手でやさしく私の腕を引く。そうしてその大きな臼の中に私をそっと押しやる。
 私は臼の中からあの人が覗きこんでくるのを見上げる。微笑みを浮かべて嬉しそうに私を見下ろす愛しい男の顔を。そして臼の取手にかかった分厚い手を。あの人が私の身体に、胸に、腹に静かにゆっくりと触れた時のように。容赦なくその手が臼を回すと、私はあの人を見上げたまま、ただ黙ってぽろぽろと涙を流しながら足の先からすり潰されていくのだ。

 どの夢も、痛みと苦しみとそして絞り上げられるような胸苦しさを残していく。もう二度と二度と絶対にあの扉を開けたくはないのに。私はいつもの様に右に曲がってしまう。暗い闇が広がる通路へ脚を踏み入れてしまう。自ら望んで。自ら進んで。


3へ続く・・

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    2012

07.31

白昼夢


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DSC_0773.jpg



 スーツケースには大きなキャスターがついているに限る。あんまり力の強くない私は、そう思う。それに、4個ついていることは言うまでもない。後ろに引っ張る2輪式は、取り回しにコツがいり、その上荷物を詰め込むと重くなるのだ。
 「1泊のお出かけなのに、なんでそんなに荷物が多くなるのか。」と、よく夫に言われる。一番の悪者はパソコンである。普段使っているノートをそのまま持ち歩くのでこれが結構重い。着替えをもう一泊分余計に持って行きたがるのも私の悪癖である。何かアクシデントが起きて服を汚してしまったり、汗をかいて着替えたくなったり・・・そんな時のために備えてもう一組。何しろ「もしも」が、好きな人なので、綿棒からとげ抜きからビニール袋まで、普段の移動の時でもバックの重さはピカイチである。
 それから、自分専用の縄。今回は縄を習う機会があるかもしれないから、自分の縄が必要なのだ。縛られている時は全く重さを感じないのに、束にまとめて持ち歩くとこれがまたずっしりと重い。そしてスパンキングラケット、オーダーして作ってもらったお気に入りの、のたりと丸くとぐろを巻く、長くて黒い一本鞭と短いピンクのバラ鞭。芯が無くて、先が柔らかいからあまり痛くない短い鞭。マッチ棒のような先っちょを持っているローター。
 あれやこれや思いつくものを詰めているうちに、黒いキャリーバッグは、もう、パソコンを押しこむだけのスペースしか空いていない状態になる。おみやげを買うわけじゃないからまあよいだろう。ぎゅうぎゅうと詰め込んで蓋を閉めた。

 家の中をぐるりと一回り。窓を閉めて、電気を消して回る。お風呂の予約をして、夫の下着の着替えを脱衣場に置いて。最後に玄関の灯りをつける。妻がいない家に帰ってくる夫が、鍵を開けるのに苦労しないように。

 考えるのは自分の方向音痴の事。今日の目的地は初めて行く所だから用心のために、縮尺の大きいのやら小さいのやら、グーグルマップを何枚も印刷して来たのだけど、ちゃんと辿り着けるかどうか分からない。最寄り駅から家に帰る時でさえしばしば迷う私だから。ほんとだったら真っ直ぐ行く道を、何も考えずに左に曲がってしまう。左へ曲がる道は何本もあって、どれも同じように見えるし、曲がった後も同じような住宅地。だから気が付かないで迷子になってしまうのだ。
 幾つかの駅で電車を乗り換えて、えっちらおっちら、キャリーバッグを抱えて、階段を昇りそしてまた降る。今、通り過ぎた駅はなんて名前だっただろう・・・。ああ、去年までは、私はこの駅で降りていたのだった。でも、もう、二度とこの駅で降りることはない。
 冷房の効いた車内と違い、むっと熱い風が吹き抜ける地上の道を、ガラゴロ音を立てながら付いてくるキャリーの音を聞きながら歩く。ただひたすらガラゴロガラゴロ。

 ずっとここの所、考えても益体もない繰り言を頭の中で繰り返してきたせいか、それともいつもの習性か。ただ、なんとなく。こんなにまっすぐ歩くはずはない・・・・と、いう勝手な判断に基づいて、またしても曲がるべきでないはずの道をつい右へ曲がってしまった。地図を回してみていてもなんのかいもないのである。


2へ続く・・

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    2012

06.12

押入れ



どうして
みな
あなたを捨てて
去って行くのか
よく考えなさい

言われて
考えていたら・・・
ポロリと、首が転がり落ちた
拾おうとしてかがんだら
ガシャリと 関節が音を立てて力を失って 膝が崩れて
ころころ 転がって行く首を拾えなくて 途方にくれていた
けれど
やっぱり見えないものを見るのはやめられない
剃刀で軽く引いて それから深く
紅い血は ゆっくりと溜まるから
その池で泳ぐ練習をしようとしたら
どんどん沈んで溺れてしまった
池の底に落ちていた黄色い仮面をつけて
夜の街へ踊りに行こうと思った
笑って 歌って くるくる回って
夢の中で描いていた事は何も現実にならず
恐れていた事はくっきりと形を表して
だからこのまま
もう 諦めたから 大丈夫
おやすみ


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M男性のためのリンク
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    2012

02.14

縛め






心はいつも
あなたの腕に捕らわれている
どんなに遠くても
会えることがかなわなくても

乱暴に

掴んで

引きずり回して

私は壊れる

粉々になって
キラキラと光りながら吹き散らされる
私はもういない

だからもう傷つかない

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    2011

11.17

留め




首輪 手錠 鎖
つなぎとめるもの
逃げられない証のように
喰い込んでくる

近づき 遠ざかる
寄せて返す 白い泡
うねり 引きこむ
決して留まらないのに

私は いつも 
そこにいます







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    2011

11.17

こひ




否定して 否定して また否定する

繰り返し 打ち消す
決して消えない 
幻に過ぎないのに

変わっていく
少しずつ 
失われる
崩れ去る
指の隙間から

なのに

願いは くりかえし
戻ってくる




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    2011

11.13




私は あなたを失う

何度も

何度も 何度も 何度も

心は その度に 動けなくなる

世界から 色が失われていく

想いの 密度が薄まる

絞り込むような 息苦しさが 遠ざかり

現実感が消え失せ

自分がどこにいるのか分からなくなる

諦観と虚無とブレンドされた失墜の感覚



朝が来る

また あなたを失う朝が

そして私は 繰り返す

期待と不安

ポッカリと空いた胸の穴に

手を突っ込んで

失った悦びを見つけようと

えぐり出す作業を



もう一度出会ったような既視感と

もう一度失うための痛みを


 




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    2011

07.19

思いは誰も同じ

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離れている距離を
埋める電波の繋がり
沈黙が木霊になって響き
柔らかく包まれる
ここにいるよ20110127151327.jpg

ここにいるよ
ここにいるよ

返って来る返事に
ただ癒される
同じ部屋にいるように
あなたの時間を私は生きている

繋がりたい
絡みつきたい
抱きしめられたい
奪われたい

思いはみな同じ

泣かないで 寂しくなるから

電波の返事を
ただ 待っている



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    2011

07.17

締めつけ



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20110206021012.jpg


側に行くと ひっぱたかれる
距離が埋まる喜びよりも
残る傷の方が深い
自尊心が 形をなさなくなって
苦しくて ただ吐くしかなかった
耐えられないなら 離れるしかない


率直さよりもましな気がして
塗り重ねる隠し事の方を受け入れた
バランスが端から崩れる
立て直すだめに その上に嘘を塗り重ねる


嘘には嘘を
隠し事には隠し事を
本音を言っても言わなくても
同じだけ空回り
離れて行く人に同じだけの隔たりを
二人でやれば 距離は2倍


一歩 距離を置いて
二歩 離れて
大好きだった気持ちを
薄めて行く


傷ついた心と同じだけ身体を傷つける
落ちて行く心と同じ位置に身体を 貶める
痛みが必要です
何も考えられないように


寄り添っていた心も
追いかけずにはいられなかった視線も
きれぎれにして 風に吹き散らす
ぽっかり空いた穴に
無理やり 言葉を押しこんでも
決して埋まらない


喪失は代替えがきかない


だから 失わないために 気持ちを作り変える
そしていつか 失うことも 耐えられるようになってしまう
論理の破綻 言い訳のくりかえし
苦しみが無くなると
気持ちも無くなる
楽になるのが先か
破たんするのが先か


傷つかないだけの距離が離れたら
好きが残ってても
身体はもう言う事をきかない



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    2010

12.10

舞姫・4

舞姫・1を読む








 必死に顔を背けて、覆い隠したくて勝手に動きだしそうな手を握り締めて、身体を固くしたまま立ちつくす。視線が、肌を切り裂くようで、身動きするとバラバラになりそうで、恥ずかしさに叫び出してしまうんじゃないかと思いながら、じっと立ちつくす。
 時間がのろのろとすすみ、身体が、赤く火照り、汗が滲む。

「ワルツ。ホールドを取って。」

 え?脳が、言葉を理解するのに時間がかかり、私は、ただ呆然とする。

 そうだった。私は、ダンスを習うためにここにいる。綺麗に踊りたいがために、うまく踊りたいがために。全裸のままで何も身を覆うものがないままで、ポーズをとる自分を思い描く事が出来なかった。でも、服を脱いだのはそのため。ダンスを習うためなのだ。

 のろのろと腕を持ち上げ、ダンスを踊るために相手と組みあう姿勢を取った。胸を張り、背を伸ばし、腹筋に力を入れる。持ち上げた腕はやわらかく、相手に頼らず、一人でバランスを取る。頭の中で、美しい形を描き、それを体でなぞる。

「力を抜いて、案山子踊りじゃないぞ。」

 素肌に教師の手が伸びてきて、腰板を後ろから軽く押した。ひっ、っと、ひと声、喉奥で飲みこんで、ようやく私は跳びあがらないで、何とかその姿勢のまま留まる事が出来た。

「鏡を見て。」

 言われて、恐る恐る視線を上げる。磨きあげられた鏡の中央に全裸でワルツのホールド姿勢を取っている自分の姿が見えた。新たな恥ずかしさが襲って来て、私は、思わず、視線を逸らさずにはいられない。

「目を逸らすな。」

 冷静で平坦な教師の言葉は、私を、その姿勢に縛りつけるようだ。添えられた彼の手が、触れるか触れないかの位置をゆっくりと這い廻り始めた。ああ、嫌。触らないで。触らないで。心の声は、外に漏れる事なく抑え込まれる。
 撫で廻すような、愛撫するような、それでいて、さらさらとした乾いた手は、時々、私の身体をそっと押し、正しい姿勢へと導いて行く。鏡の中に映る白い身体は、黒い服を着た悪魔のようにいびつな男の手に捕らわれて心細げに立ちつくしている。心臓はどきどきと走りだし、火照る頬は、熱く燃え上がる。ふと、手が離れ、教師が動いた。離れ、そして戻ってくる間に音楽が流れ出す。

 ワルツだ。

 くるりと、教師が正面に来て、私の手を取った。ふんわりと身体が重なる。相手が服を着ている。そして、私は素裸なのだ。肌に触れる布地が痛いほどそれを思い知らせた。ギュッと目を瞑って、恥ずかしさを、振りほどく。
 ああ、このホールドもそうしてふりほどけたらいいのに。だが、私は柔らかく彼の腕の中に納まり、私の下腹は、彼の身体に軽く押しつけられた。

 軽く、押された。

 そして、私達は動き出した。音楽にのせて、ワルツのステップを踏む。リードのままに下がり、前に出る。ぐうんと沈み、そして持ち上がる。足を交差させ、横に滑り出る。

「ストップ。」
 
 はっと、我に帰ると、そのホールドが解けていた。

「今のところだ。ダウン、そしてアップ。うまくダウンできてない。それに、ホールドが固くてバランスをくずす。腕に力を入れるな、相手に体重をかけてるぞ。自分だけで立つんだ。」

「も一度」

 そう、もう一度、ギュッと目を瞑り、思い切って動き出す。忘れて、自分が裸なのは忘れるんだ。しかし素肌に触れている彼の手は熱く、背中が燃えるようだった。

「だめだ。ダウンを意識して、深く沈む。歩幅をもっとしっかりとって。」

 私は、喘いだ。足を開くと頼りなく足の間を風が吹き抜けていく。それだけでなく、パンティをつけていないだけで、不思議な感覚が足の間に送りこまれて来るのが感じられる。なぜ?私は何も望んでいない。身体が勝手に反応している。教師の服を着た脚が、私の素裸の脚を割って入りこんで来る。

 そして、教師の手が、わずかに正しいはずのホールドからずれた。私は、びくっと、止まってしまう。

「どうした?続けて。」
「嫌。手が・・・・。」
「そうだな。」

 捕らわれて、逆らえないまま、私は、必死に息を吸い込む。

「ダウンを意識しろ、うまくいかない度に手は下へ降りて行くぞ。」

 低く囁く、悪魔の声。
 何を言われているのか分かって、私の、心臓は跳ね上がる。正しく踊らないと彼の手はどんどんと下へ降りてくるつもりなのだ。崖っぷちに向かって、歩かされている。恥ずかしさなどにかまっている場合じゃない。相手のリードに身体を任せて、動きに気持ちを集中しようとした。
 くるりと、身体が廻り、視線の先に自分の白い背が見えた。そしてその背を這う男の手が。ああ・・見ずにはいられない。その手が、這い降りてくる先を。白い桃色の二つのふくらみとその間の谷間。
 身を守るために正しく踊る。意識しちゃだめだ。柔らかく。身体を預けるんだ。

 けれど、そう思えば思うほど、一瞬横切る自分の白い体を見つめずにはいられなかった。くるりと回る度に、這い降りてくる手。ゆっくりと、狭間に向けて這い降りてくる手を。

 ああ、嫌。やめて。助けて。触らないで、お願い。止まって。止まって。
 必死になって、正しい姿勢を保って、踊り続ける。今度はうまく行った。あ、だめ、失敗。また降りてくる手。そんな・・・嫌ぁ。もう、だめ。それ以上はだめ。

「どうした。集中しないと、想像している通りになるぞ。」

 ひぃぃ・・。私は、悲鳴を押し殺した。またひとつぶん。そしてまたひとつぶん。手が、降りてくる。さっきまで熱く火照っていた身体に、総毛立つような感覚が襲って来て、さっと鳥肌が立った。 手は、双球の割れ目を這い降りはじめていた。その行きつく先は、考えなくても知れていた。

 いやいやいやいやいやいや・・・・そんな。やめて。止まって。止まって。止まって。

 近づいてくる指。もう踊るどころじゃない。それなのに私はただ夢中でステップを踏んでいた。崖っぷちは、もう目の前。後は跳び下りるしかない。振りほどいて逃げる。そうするしかない。伸びあがり、沈み込む。身体が、浮きあがる。

 その瞬間、相手の手はぴったりと私の恥ずかしいお尻の穴の上に押し付けられていた。

 いやあああああああああああああ!!

 私は、声も立てられずに相手の腕にしがみついた。だが、教師はリードを止めようとはしない。

「踊るんだ。」

 くるり。くるり。くるり。廻る輪。鏡の中に踊る。串刺しにされて逃げる事も出来ず踊り続ける。見つめずにはいられない。禁断の場所へゆっくりと沈んでこようとする指をまといつけたまま踊り続ける白い身体を。
 私は、泣き、むせびながら踊った・・・。

 ただ、教師のリードのままに廻り続けた。


続く・・


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    2010

12.06

舞姫・3

舞姫・1を読む







「レッスンの前に服を脱いで。」

 誰もいないレッスンルームに教師の声が静かに響く。二人きりの気まずさに、照明の灯りが床の上に丸い光を重ねているのを見つめていた私は、はっと我に返った。

「服を脱ぐんですか?」

 思いもかけない指示に、私の声は上ずった。思わず誰かの助けを求めて周囲を見廻しても、誰に助けを求められる訳でもない。教師と私の二人だけ。服を脱ぐってどういうことなのか、実感がわかないまま教師の顔をまじまじと見つめてしまい、相手の揺るがぬ視線に困惑する。

「ここで?」

 もう一度周囲を見渡す。ぴかぴかに磨き上げられた広々として何も無い床の向こうには、一面の鏡。そして、その鏡を一直線に区切って取り付けられた、レッスンのためのバー。そんな場所で、よく知らない男を前にして服を脱ぐという、あまりの非現実さに私は困惑した。

「脱げません。」
 ちょっと首をかしげ、じっと見つめてくる教師は、頬を軽く歪めるようにして笑い。
「脱げないのならレッスンはできない。お帰り。」
と、扉の方へ顎をしゃくった。

 本気で脱げと言っているのだ。私は、そこへ到ってようやく、自分が、今、ここで、服を脱がなければならないと言う事を理解できた。必死に首を振る。人前で服を脱ぐ、しかも、こんなだだっ広い場所で。愛情を交わそうとしてる訳でもなく、ただ、服を脱ぐなんてできる訳がない。

 だが、教師は、ただ、黙って立っていた。私に、出ていくか…それとも、残るのかを選ばせて。ただ、待っている。

 私の頭の中は、混乱と、恐れと、羞恥で、でんぐりがえりそうである。

「向こうへ行って脱いできてもいいですか?」

「いや、だめだ。・・・ここで脱ぎなさい。」

 私は、追い詰められて満足に息もできない有り様だった。

 だけど、ここまで来て、逃げ出すなんてできない。生来の意地っ張りの性格が頭をもたげ、一つ、息を吸いこんで、私はブラウスのボタンを外し始めた。震える手で、一つずつボタンを外して行く。慣れているはずの動作が、うまく行かず、自分がどれほど緊張してるのかが分かって、ますます、気持ちが上ずってきた。
 ブラウスの前が開くと、布地の中から、一つずつ肩を引き抜きだした。必要が無いのに、身を縮めようとして、腕がうまく抜けない。肩が袖に引っ掛かって、それで、尚更焦り、身体は熱くほてってくる。ブラウスを床に落とすと。正面の鏡に、キャミソールとスカートだけの自分の姿が映っていた。

 かああああっと、顔がほてる。「恥ずかしいってこういう事なんだ。」と、改めて認識する。
 でも、ここでやめたら、ばかみたいじゃないか。もう、一枚脱いじゃったのだもの。私は自分に言い聞かせながらキャミソールをスカートから引っ張り出すと、一気にまくりあげた。頭から布切れを抜くと、もう、鏡を見るのが怖かった。上半身はブラだけになっているはず。

 スカートを先に・・・?それともストッキング?なんてバカな事で迷ってるんだろう。どっちにしても、両方脱がなきゃいけないのに。それでも私は、ストッキング姿を見られるのが嫌さに、先にそれを脱ごうと決めた。そして、本能的に、教師に背を向けようとした。

「こっちをむいたままだ。」

 あああ、嫌。どうして?服を脱げばいいんでしょ?なぜ、目の前で脱がなきゃいけないの?しかも教師の方を向いたまま?一度、背を向けてしまうと、正面に向き直るのがなんて難しいんだろう。ただ、それだけの動作に恥ずかしくて汗が滲んで来る。

 勇気を出して、手をスカートの裾からもぐりこませて、かがむようにしてお尻の方へ廻すとくるりとパンティストッキングを巻き降ろした。立ったまま、綺麗に脱ぐにはどうしたらいいんだろう。身体を堅くして、ストッキングを引き降ろし、足を一本ずつ汗ばんで絡みつくナイロンの中から引き抜こうとした。バランスを保つのが難しい。小さく、できるだけ小さい動作で脱ごうとしているからだ。私は泣きたい気分で、片方の爪先をようやく抜きだすと、足を踏み変えて、もう一方の足にとりかかった。
 ブラウスの横にストッキングを落とす。次はスカートだ。チャックを降ろすと後は手を離せばすとんと落ちる。16枚剥ぎのフレアスカートは、身体のどこにも引っかかりようが無い。手を離せば、私はブラジャーとパンティだけの姿になってしまう。どうしよう。どうしよう。でも、迷ってもしょうがない。進むしかないのだ。

 自分からスカートを握る手を離したのに、身体が露わになった途端に、私は、しゃがみこんでいた。恥ずかしさに身体が震える。顔を伏せて、床に丸まり、このまま、自分の影の中に逃げ込みたい。床の上で小さくなって震えてる私を、教師は黙って見降ろしているだけだった。

 時間が経って行く。このままではどうしようもない。立つしかないのだ。私は、もう一度決心し直し、おずおずと立ち上がり、教師の前に下着姿の身体を晒した。

「お、お願いです。もう、これで・・・・。」

 答えは分かりきっていたのだけれど、すがるような思いで言葉を絞り出した。全裸になるなんて、耐えられない。服を抱えて逃げ出したい。

「だめだ。」

 淡々とした答えが返ってくるばかりだった。ああ、失敗した。ためらったり、逡巡したり、そんな事をせずに、お風呂に入る時のように、さっさと脱いでしまえばよかったのに。そうすれば、こんなに恥ずかしさにさいなまれる事なく、この時間を通過してしまえたのに。でも、もう、やり直しはできない。
 床の上に、輪を描いたスカートから抜けだすと、かがんでそれを拾い上げるとブラウスの上に乗せる。

 込み上げてくる羞恥は押さえようがなく。肩をすぼめて腕を後ろに回した。ブラのホックを外す。胸の前の布地を押さえたまま、肩紐から腕を引き抜く。そしてもう片方も。
 私は、自分の抱きしめている小さな布地にすがりつくような思いだった。手を離さないといけないのが分かっているのに、一瞬ですむはずなのに、そこを越えるのがなぜこんなに困難なのか。
 男の前で、自ら脱いで、胸を晒すと言う事が、こんなにも身の置き所が無くなるほど恥ずかしいなんて思ってもいなかった。

 それでも、少しずつ布地はずれていき。私はため息とともに、それを床に落とした。片方の手でしっかりと胸の膨らみを覆いながら。立ちつくす。教師は何も言わない。

 私は次の作業に取り掛かる。最後に残った、ただ一枚の身に着けるものを脱ぎ棄てなければならなかった。左手で胸を覆ったまま、私は右手だけでパンティを降ろそうとしはじめた。
 いつもは両手でするりと引き抜ける物を、片手だけでしようとすると何と困難な事か。だが、私には左手で胸を覆う事が最後の砦のようになっていて、どうやっても、やめられなかった。不自由に右手だけで少しずつパンティをずり降ろしていく。それが、羞恥を長引かせる結果にしかならない事が分かっていても、恥ずかしさを煽り立てている結果になっている事が分かっていても、どうしようもなかった。

 身体中を真っ赤にして、ぎこちなく、最後の一枚を抜きとった瞬間に、私は右手で、下腹の茂みを覆わずにはいられなかった。脚をくの字にして、できるだけ隠そうとして、左手で胸を覆い、右手で茂みを覆い隠そうとする。

 その時、私の目に、床に脱ぎ棄てられたまま落ちているパンティが目に飛び込んできた。くしゃくしゃと小さくなってはいるものの、今脱ぎ棄てた形のままに落ちている自分の下着。もう限界だと思っていた羞恥がまた強く襲ってくる。急いでそれを拾って、服の下に隠さなければと思うのに、それをする事は、身体を覆っている手をどける事だった。喘ぎながら、ためらいを振り棄てて私は落ちている下着に飛びついた。
 大急ぎで、積み重なっている服の下にそれを突っ込むと、次は、もう一度立ち上がらなければいけない。

 なぜなのだろう。一つの動作。一つの呼吸が恥ずかしく。私は、目眩がしそうだった。必死になって自分の身体を隠そうとして両掌を広げても、全裸で立っている事は変えようがない。自分だけが服を着ていない。その事が、広い教室のひんやりとした空気の中で、熱く汗ばんだ身体には、ただただ恥ずかしく居たたまれない。

「手をどけろ。」

 最後はそう言われるのは分かっていた。最初から分かっていた。何もかも見せなくてはならない事が分かっていた。それでも、私は、ちらと、教師の肩越しに鏡を盗み見ずにはいられなかった。すべてを晒す前の、自分の姿を見ずにはいられなかった。


舞姫4へ続く・・



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    2010

10.08

唐突な段落


目隠しして腋晒し





 店を出て一番最初の角の小さな小道で、あの人はいきなり私を小道へ引き込んだ。考える暇もなく、抵抗する隙もなく、心構えも無く、壁に押し付けられる。
 暗い小道、通り過ぎる車のヘッドライトと、向かい側の街灯の白い明り。
 頬に当たるコンクリートの壁、ついた手にざらつく、壁の凹凸。身動きが取れない。意外な状況に走り出した心臓の鼓動と、重なるぶあつい身体の重みが、真っ白になった頭の中をいっぱいにする。
 スカートをめくりあげてくる迷いのない手。下着もろともにストッキングを引き下ろす。ひんやりと外気に触れる事で分かる。自分の身体の熱さと湿ったほてり。

「いやか?」

 口を開けて息を吸い込む。首を降ろうとして、どっちか分からない事に気がついた。
 外でやったことなど一度もない。誰かに見られたらどうしよう、とも思う。だが、恥ずかしさはさほどなく、どこか、開き直りのような、それでいて、膝の力が抜けてそこから溶けて流れ出して行きそうな不思議な感覚がせめぎあっていた。
 掌が足の間を撫で上げる。その掌の熱さに思わず目を閉じる。吐息。あえぎ、それから、ひゅっと吸いこんで息を止める。いきなり引き裂かれる力に、私はなすすべもなく、のけぞる。

 ゆれる。風景がそして自分の身体が。突き上げられる。街灯の明かりがフラッシュのように瞼の裏に瞬いて、BGMに湿った音が響く。私は私でなくなり、ただの、濡れた肉の塊のよう。喘ぎ、押さえきれない声をもらす淫らな肉。

 何もかもが本当のようでなく、何もかもが当たり前のように、すとん・・・と胸の中に落ちて。これでいい、ああ、これでいいのだ。と・・・。

 色と光が混じり合う世界が音を立てて弾けて、ぽんっと終わりになり、私は放り出された。あの人はハンカチを取りだすと、自分のものを拭い、濡れた足の間をおざなりに拭ってくれた。

「しまえ。」

 うん、とうなずいた途端に、足に力が入らなくなって、かくん・・・と砕けた。いきなりだったのに、測っていたように、あの人の腕がのびてきて、その胸の中に抱きとめられる。

 その瞬間に抜けおちていた感覚が、雪崩を打って戻ってきた。

 あ・・逝くかもしれない。

 抱きとめられた腕の中で私は痙攣した。中途半端にパンティをストッキングを足に絡ませたまま。

 なぜ、さっきでなく。

 なんで、今なのか・・。

 分からないままに、あの人の腕にしがみつく。

「いけよ・・もう一度、いけ。」

 なぜ、この人の声は、いつも、こんなに、しらじらと醒めているんだろう。ただ、耳朶にに触れる息が、私の、心を震わせる。何も考えずに、身を任せていられる幸せ。

 夜は、白い街灯の明かりが切りとる世界の、その光の外側にある。

 なにもかも終わって、ようやく何とか立てるようになった私は、ふらふらと歩き出す前に、下着をあげないで、脱ぎ棄てて・・・くるくると丸めてバッグの中に突っ込んだ。


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    2010

06.01

舞姫・2

舞姫・1を読む







 半年ほどの間通った、社交ダンスのレッスンは一向に上達の兆しを見せなかった。ステップを覚えるのは簡単だったし、スタイルもまあまあの私は、例のきらきらイケメン教師の腕にしがみつき、ふりまわされて、くるくる廻った。
 でも、鏡に映る動きは、どう見ても、オルゴールの中の人形の様。ワルツやクイックのようなダンスは、まだしも、タンゴやブルースになると何か物足りない。ましてやルンバやサンバのようなラテンダンスとなると、お手上げだった。
 そんな時に、私をダンスに誘った友達が、上のクラスのアマチュア試験を受けるので、見学に行った。私と大差ないダンスを踊る人もいるけれど、私の友達は、ダンス歴も長くて、パートナーも教室で仲良くなり付き合い始めた社会人で、おまけに本人いわく相性もばっちりなせいか、とりわけ光っているように見えた。

 うまいなぁ・・・。うらやましくて、ちょっと胸が煮えた。先んじて習っていた2年という時間はともかく、同じステップひとつとっても、どこか、セクシーで、色っぽい。爪先が床をなぞるように擦れて行く時の膝が描くラインも、腰が揺れる様も・・・。思わずため息が漏れた。

「もっと、うまく踊りたいのか。」

 話しかけられて、びっくりして振り向くと、そこには、あのダンス教室の教師が立っていた。ジプシーのテントをランタンの灯りを頼りにくぐる占い婆の後ろに片足を立てて座っているような、いびつで黒い男。何にも動じず、動く度に、風が吹く。草原の風が・・・。

「先生。あ・・・・・踊りたいです・・・。」
小さな声で返事した。私は、この教師が怖い。とても怖いのだ。怒ったりする訳じゃないのは知っているが、低い声は、逆らう事を許さないかのように地を這う。
「性の喜びを知らないとね。」
 それが意味するものに思い当たり、私は顔を赤くした。男を知らない訳じゃないけど、知っているかと言われればたいした経験のない私は、色っぽさからは程遠いのかもしれない。最初の彼も、二番目の彼も、そして、こないだ別れた三番目の彼も、私を大事にしてくれたけど、ただ、それだけだった。
 でも、セックスに長けているからと言って、うまく踊れるなんて嘘。私は、ちょっと反抗的に教師を上目づかいで見た。教師は、私が納得してないのに気が付いたのだろう、微苦笑して、ちょっとかがむようにして、私の横顔を覗き込んだ。
「信じてないね。」
 首筋に暖かい息がかかり、私は、ぞくっとして、首をすくめた。酩酊するような感覚が背筋を這い上る。そんな事は初めてだった。私は、何気ない教師のそんな振る舞いに、なぜそんなふうになるのか不思議に思った。知らず、思わず、覗き込んで来る教師の瞳をみつめかえす。黒い・・・虹彩が分からないほどに真っ黒な相手の瞳を。

 何がどうなったのか分からないけど、だからって男と遊ぶつもりなんかないとむきになって抗弁する私を、教師は、困った娘だなぁ・・・と、雛鳥を見るように優しく笑った。セックスはむしろ関係ない。セックスしなくても身体が男に触れる喜びを覚えてる事が大切なのだ。求愛のダンスだからね。知らないものは表現できない。

 そう、私は何も知らなかった。男の言う事がよく分からなかった。教師が私の腰を何気なくホールドして引き寄せた時、その掌の厚みと暖かさに、思わず腰を相手の身体に押し付けてしまっていた。ごく当然の動き。あまりにも自然な動き。何の疑いも抱かせない、自信のあるリード。
 しなくてもいけるかどうかためしてみるか?服も脱がずに、性器にも触らないで。私はあれやこれやと反論しながらも、男の導くままに競技場を出て、人通りの少ない裏道を曲がり、どことも知れぬ草むらへ連れ込まれ、そしてそこで男とダンスを踊る羽目になったのだった。


→舞姫3へ続く・・




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    2010

04.18

舞姫・1


sensuality_art: Слушай песню ветра




 線路沿いの草むらの中、住宅街の屋根を見あげながら、丈の高い草の中に横たわって、私は、男の腕の中にいた。
 ちょっと小太りで背の低いその男は、道で声をかけられたら絶対に、
「しかと」したくなるんじゃないかと思う容貌をしていた。ごつごつと、節くれだった木の切り株から切り出したような日に焼けた顔立ちに、丸くころころとした指。絶対に私よりも20は年上。いやもっと上かもしれない。厚みがある身体や、頑丈な手足が、中年の脂をのせて、ギトギトと光っている。
 そんな男の印象は、いつしか、色変わりのマーブル模様のように、からくりのどんでん返しのように、くるくると変わっていく。王様や王子様の陰で笑う、どこかいびつでゆがんだ道化師のように、あっと驚かせ、違う姿をひけらかす。捕まったら、悲鳴もあげられぬようにすばやく、人を、あっさりと地獄の穴の中へ引きずり込むだけの本性を持っている男。

 もし、その男が、綺麗に洗った後のシャボンの香りをさせていなくて、
どんな時でも、ピンと背筋が伸びていなければ、私はその男に身体を預けただろうか。その丸太のように腕が、私の身体を勝手気ままに抱きしめて、右へ左へと、振り回すのに身をまかせたりしただろうか。もし、その男と、暗い街灯の下で擦れ違ったら、私は恐怖に震えて廻れ右をして、叫びながら逃げ出したのだろうか。

 分からない。

 実際は、そうじゃなく、私は彼と、社交ダンスの教室のミラーボールの下で出会った。有名な競技ダンスの選手を次々とイギリスへ送りだしている名の知れた教室の、いわゆる初心者向きのレッスン。私の相手をしたのは、若いちょっとイケメンの教師だったのだけれど、レッスンの半ばには、私は、その黒い男の方に目を奪われていたのだ。
 明らかに「うまい」と、分かる男女のペアの側に男は立っていた。言葉少なに指示を出し、時々、ちょっとステップを踏んで見せたり、2、3歩毎に、ポーズの途中で止まったマネキンのように動きを止めたりしている男女の身体に手を添えて、正しい位置に来るように直したりしている。
 どうみてもちんちくりんで、不格好なのに、なぜ、こんなに目を引くのだろう。何気ない手の振りにも、足の運びにも、特に変わった事があったわけでもない・・・いや、もしかしたらあったのかもしれないけど、初心者の私には、それを見分けられるほどの力もなく、ただ、目の前に立っている、私をホールドしている、キラキラしくすらりとした若いダンス教師の肩越しに、そのイケメン教師が私をくるりと回すその度毎に、私は、そのどう見てもどこかバランスの悪い、いびつで美しい奇形を思わせる身体付きの男を、見つめずにはいられなかった。

 そして、今、ごくあたりまえに、人が通って行く、その道の傍にある草むらの中に、私は、男の腕の中で、背中を土につけたまま、思わず開いた瞳に眩しい空を仰ぎ見ては、ギュッと目を瞑る事を繰り返していた。身動きがとれないほど、しっかりと絡みついた両腕の中、首をすくめようとして、甲斐の無い努力を繰り返しながら。男の胸を必死に押し返す。足をばたつかせてもがき逃れようとする。男の腕は強く、私の、抗いにびくともしない。

 背筋を這い上がっては、翻り身体の中心を貫いては遠ざかる、その甘い感覚に、私は、翻弄されていた。
 男がやっている事は、私の耳に唇を押しあてて、舐めたりしゃぶったり、息を吹きこんだり、吐息のような喘ぎを訊かせたり、舌を押し入れて来たりするだけなのに。最初は、身震いしては、首を振ったりしていた私は、すっかり地面に押し付けられ、もう、その耳も彼の唾液に濡れた頸筋も、感じやすい髪の生え際も、彼から守る事ができなくなっていた。身内を走る快感の波が、繰り返し、繰り返し、私を捉える。
 背中の下にある冷たい地面と、そして、私の身体にしっかりと巻き付けられた男の腕と、そして、私を押しつぶす厚く盛り上がった胸板と。しがみつくその男の身体が無ければ、私は、宙を舞い、打ち上げられそれからまた急降下を繰り返す、初めてのその快感に耐えられなかっただろう。

 初めて。そう、本当に初めてだった。私の貧しい性体験は、もどかしく自分の身体をどう扱っていいのか分からない延々と続くオナニーと、中途半端なオーガズムとも呼べない薄っぺらな快感のまとわりついたセックスによって、作りあげられていた。
 本の中で、ネットの動画で、たくさんの女たちの喘ぎ声で彩られた「逝く」と言う出来事が、実際はどんなものなのか、知らないと思い込んでいた。昇り詰める。気持ちよく弾ける。その最中でも私は冷静で、翌日の晩ご飯の献立だってたてられた。我を忘れると言う快感とやらに思い焦がれ、私は、布団の中でこっそりとえろちっくなロマンス小説や官能小説をひっくり返しながら、溜息をつくばかりだったのだ。

 だから、男が、私を草むらの中で、石ころにつまづくような場所で腕の中でゆらし、やがて、まるで、ホテルのダンスパーティの中に居るようにロマンチックに踊らせてくれながら、私を「逝かせて」くれると言った事も、まるで、信じていなかった。服も脱がせないで、セックスしないでどうやって、そんな事が出来るものか、と。

 「できる」と、男はにやりと笑いながら言った。優実が俺に逆らわないならば、俺に、すべてを預けるのなら。波に乗り、一緒に、海の底へ潜る覚悟があるのなら。

 そうして男は、そっと、私を腕に絡め捕り、頬に口づけ、その唇を滑らせて、吸いつかせては、優しく歯を立て、ああ…とにかくよく分からないままに、気がつけば立っていたはずの私はいつの間にか膝が折れ、地面の上に横たえられて、男の身体にしがみつきながらも抵抗する事を繰り返していた。

 うねりが押し寄せる。

 逃れようと、もがく。逆らってはいけない。一緒に、共に・・・。
けれど、あまりにも鮮烈で強烈な快感に耐えられなくなって私は暴れずにはいられなかった
頭の上に水があるのに、足もつかない大海原で、息を吸おうとして、伸びあがる。私を水面に浮かび上がらせて、一瞬息を吸い込む余裕を与えてくれるのは、その海の底に私を沈ませようとしている男。だた私が必死になってしがみついているその男だけなのだった。


→舞姫2へ続く・・




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    2010

03.25

明けがた4時


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忘れてしまいたいもの

虹 色のついた世界 

眠れない夜

車の鍵

安定の記憶

30秒後に受け取ったお守りのメール 

そしてピンクのだるま




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    2010

02.13

もの思い





この月をあなたも見ていると思い
慰められた時がありました

今は それがくちおしい

真っ暗な夜
星の明かりもいらない夜
昔見た夢をたどりながら
我が身に刺す針の痛みを思い出す
癖になるから
それはしまいなさい・・・と

癖になって
痛みを追いかけて
我が身を引き裂いて

どこまでも
どこまでも

引き返せないから
自分でするのは危険です

だれか どこかにいる人に
うんとお仕置きしてもらいなさい




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    2010

01.27

繰り言


ストッキングと手袋



土曜日の夜はいつも
同じ手すりにもたれて
ハミングを口ずさみながら
月を見上げてた

あの年も
あの年も
あの年も

あっという間にすり抜けて
残ったのは 月を見ていた事だけ

今 感じている この痛みも それは
同じようにただ陽炎のように
揺らいで消えて行くのかしら

言い聞かせて
この一瞬の喜びは
決して続き はしない

一日の終わりに リセット
また明日 を リセット
胸に満ちる想いを リセット

気がついて 一人だとしても
大丈夫なように
離れていよう

誰も好きにならない
決して好きにならない
二度と好きにならない
今 あなたを好きだとしても

それはやっぱり幻だから







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    2009

10.31

命令


縛めは必要ない
心が
囚われているから
必要なのは
ただ命じられる事
心を締め上げられる事

きつく

きつく

明日を疑わないほどに



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    2009

07.31

傷痕



その傷が 目に見えたらいいのに・・・
薬で癒されたらいいのに・・・






そっと掌を当てて そして ぬくもりを伝えられたら
こんなふうに眠れぬ夜に泣く事もないだろうに







強く抱きしめて
現実の痛みに置き換えられるように






その手で痛めつけて


自分でやらなくてもすむように




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    2009

07.18

くりごと


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心は押さえつけて
思い通りにできない

自分の心さえ

忘れようとしても
嫌いになろうとしても
ただ辛いだけ

薄皮を剥ぐように
一枚 一枚 
生身を削りとられる
滲んでいた血が
流れ出し
床に溜まって固まっていく

痛くして
何も考えない時間をください
酷くして
考えられ無くしてください

いいえ
いっそ いっそ

焼き尽くしてください



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    2009

07.06

虚ろ


いつも迷う森の中の道
辿って 巡って 転んで 穴に落ちた
森に行く前にちょっとためらった

「まあ、いいや」

考えないで

「まあ、いいや」

一歩を踏み出した

「まあ、いいや」

淋しかったから・・・

時々振り仰ぐ空に
三日月が一緒について来た

計算して
角を曲がる
月が照らす道は 頼りなく暗い

そして 落ちた穴は結構深い




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    2009

06.05

狭間に・・・12

狭間に・・・1から読む



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 途端に、身体の中で蠢いていた手が、するりと抜け出て、風が動いたかと思うと、尻たぼに、大きな手が打ちつけられた。
 派手な肉を打つ音が部屋に響き渡った。彼が私の尻を掌で打ったのだった。じんじんと痺れる痛みが、その場所に広がった。多分赤くなっているはず。掌の形に浮き出た赤さが、監視カメラの中に、写りこんでいるだろう。痛みが私を鋭く引き裂き、私は息をするのも困難な状態で、喘いだ。

 続けさまに掌が打ちつけられた。痛みが襲いかかり、私は仰け反った。腹を椅子に打ちつけて、もがき、身体を捻じった。一打毎に、痛みが強くなり、なんとかして、打たれる場所を変えようともがく。身体を丸め、次には逸らし、跳ねては、しがみつく。

「ひいっ!」

 我慢しようとしても、口を出る叫びを押し殺せなかった。

「いたっ・・・!痛いっ。」

 憧れていた。縛られてお尻を叩かれたいと。自分のコントロールの外の苦痛。彼の膝の上で痛みに泣きたいと。だが、彼がくれる痛みは予想以上で、耐えがたかった。容赦ない打撃の下で、私は泣き叫んだ。

「やめて。痛いっ、いたあああいい。」

「いやあ!許して。お願い。もう、許して。」

 何打ぐらい叩かれたのか、数えられないほどに、叫んだ。汗びっしょりになった身体を弾ませて、許しを請うて、泣き声をあげて。それが、来た時は、驚きの方が先だった。痛みが、変質していく事に。
 私は声を上げるのを歯を食いしばって押し殺した。心を澄まして、それを見つけようと、掴もうとした。膨れ上がってくる物が、痛みを押しやり、熱くなった身体に、満ちてくる物を見つめた。抑えきれなかった、かすれた悲鳴が消えていくのと入れ違いに襲ってくる波。満ちて来る。うねり。

 私は、それを見つけられるのだろうか。

 大丈夫。俺が・・・。

 教えてあげるから・・・・。

 世界は遠ざかり。私は空白の海に漂い出たのだった。




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    2009

06.04

狭間に・・・11

狭間に・・・1から読む









 押し殺す必要が無くなった喘ぎに、息を弾ませながら、私はもがいた。

「もう、終わり。もう、もう、終わり。」
「どうして?」

 彼の手は、さっきよりもゆっくりと、けれど充血して、より感じる場所を深くえぐり続けた。

「だって、もう、逝っちゃったの。もう、逝っちゃったの。だから、もうおしまい。」
「もう一度逝けるよ。何度でもね。」
「いや、もう、いや・・・。」

 私の声には鳴き声が混じり始めていた。

「見られちゃった。見られちゃった。知らない人に。」
「うん」
「嫌って言ったのに、言ったのに・・・。」
「うん」

 手が、ゆっくりと、中から出て行くと、花びらを押し広げ肉目を剥きだした。触れるか触れないかの微妙な距離で、円を描き続ける。快感は、深く、私をしっかりと掴んで膨らみ続けて行く。私は、自分の身体が、滑り落ちて行かないように、必死で椅子にしがみつく。

「考えたことがある?」

 彼の人差し指が皮を剥き、緩く添えられた親指が円を描く、中指と薬指は全く別の生き物のように動き、中に深く入り込んでくる。私は、首を振り続け、彼の指さきで踊った。

「カラオケボックスって、監視カメラが付いているんだよね」

え?薄いピンク色の靄の中、私の肉はひくひくと痙攣した。

「多分、さっきの店員が、戻って行って・・同僚に言うだろうね」

「この部屋で何が起きているか」

「手の空いたものは、替わりばんこにカメラを覗きこむ。君が椅子に縛られて、身動きのならない身体を、僕にまさぐられている様を観るためにスカートをめくりあげられて、何もかも晒しているところを。」

「カメラの位置がどこだか知っているかい?」

「君のお尻の後ろの方だ」

「きっと何もかも丸見えに映っているよ」

「録画されているフィルムの上にも」

「君の、痴態が焼き付けられている」

「受付に居た、あの若い女性も、きっと、それを見ているね。」

 恥ずかしいって事が、身動きがならないという事が、逃れられないって事が、こんなにも快感を強くするなんて思っていなかった。 
 思っていたけれど、ほんとに知ってはいなかった。彼の言葉の一つ一つが、私の、心を揺さぶり、身体の中を、恥ずかしさが荒れ狂う。優しい愛撫がもどかしい。私は、泣きながら、しゃくりあげながら、揺れた。


続く
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    2009

06.03

狭間に・・・10

狭間に・・・1から読む








 店員の上ずった声に、部屋の中で起きている事に動揺しているのが分かる。引きずるような靴の音が、テーブルの上にコップを置く音が、耳の中で反響した。それでも、彼の椅子の上の身体が、私の一番隠しておきたい場所を、店員の視線から遮ってくれているはずだ。何もかも、何もかもは見えていないはず・・・。
 その時彼の手が、私の中に入って来た。

 ぬちゃ・・・。

 濡れそぼり、充血し、男の手を待ち望んでいる身体がたてる音が、部屋に響き渡った。

 店員が、テーブルの上に飲み物を置いてそのまま固まっている気配がする。私は眼を閉じて祈った。お願い。早く出てって。見ないで。見ないで。出て行って。突き上げてくる物が私に、無意識に首を振らせた。髪の毛が揺れる。
 私の中の彼の手が、ゆっくりと蠢いた。壁をこするように中へ入って来る、そして、2本に増え。開き。またゆっくりと出て行く。と、思う間もなくもう一度中へ。

 音が響く。濡れた音。性器が立てる音が。

 テーブル越しに覗きこまれているのが分かっていて、どうしようもなかった。
 店員に、尻の間から、彼の手が出たり入ったりしているのが見えているだろう。ひくひくと体が反応し、肉が痙攣し、ぴちゃぴちゃと、淫猥な音を立てる身体が、蠢いているのが。部屋中に充満する女の匂いが。首を振るのをやめる事が出来なかった。声をたてまいと、唇を噛みしめて、吹き荒れる快感が沸き上がって来るのをを閉じ込めようとした。

 出ないで、外に。助けて。

 止まっているかのようにゆっくりと時間が流れ、店員が、スローモーションのように動き、部屋を出て、ドアがしまる音がするまで、どれくらいの時間があったのか分からない。不自然なほどにそれは長く、私は何度も何度も浮き上がり、うねりに飲み込まれそうになっては自分を引き戻した。
 ドアが閉まった瞬間に、私は叫び声を上げていた。

「いやあっ!」

 そして、逝ってしまった。耐えきれずに。



続く
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    2009

06.02

狭間に・・・9

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 立ちあがって、彼が、電話の所へ行ったのが分かった。受話器を取り、電話機に向かって、オーダーを告げる。それが意味している事を、私は、知って、仰天した。どこかで高をくくっていたのかもしれない。そこまではしないだろうと思っていたのかもしれない。それは、もしかして咎められたりするんじゃないだろうか・・と、いう予感が、彼は、そこまでしないだろうという予想に結びついていた。
 冷や汗が、どっと噴き出して、私は、逃れようと腕を引っ張った。縄がきしむギシギシいう音と、椅子が鳴る音が、部屋に充満する。黙って、抵抗する私を、彼は、止めなかった。椅子に戻ってきて座り、私が、必死に、縄から腕を抜こうとするのを、ただ、黙って見つめた。

 ああ、どうしよう。来ちゃう。もう、来ちゃう。そしたら、見られてしまう。私が椅子に縛りつけられているところを。こんな場所でなにをしているのかと思われる。いや、何をしているのかなんて見れば分かりきっている。ぎしぎしぎしぎし・・・。どうやっても、身体は自由にならなかった。

「やだ。ほどいて、見せるのは嫌。」

「うん。」

 彼の手が、また、お尻の上に乗せられた。もう、薄いスカート一枚しか覆うもののないお尻の上に、再び彼のぬくもりが広がる。それから彼の手がスカートの下へ潜り込んできて、広げられた足の間を撫で上げた。

「ひぃやっ!」

 口を閉じる暇もなく、私は叫んでいた。不意打ちに走った快感に、猫のように身体を丸めて、それを耐えた。それからじわじわと、這いまわる手が与える物を歯を喰いしばってやりすごそうとした。さっきよりも、強い快感が、身体の中から、その手の動きに答えようと広がって来る。この状況で。こんなに焦っているのに。

 彼が、もう一度スカートをめくりあげた。

「いやああああああ・・・・!」

 さらされた尻に、脚の間に、空調の風が吹きつけて来る。

「や・・・。お願い。それは、いや。スカートを降ろして。お願い。いや・・」

「うん」

 彼は、まったく頓着せず、下着をつけていた時の行為をもう一度繰り返し始めた。だが、あの時に肌をガードしていてくれた布地はもうない。直に触れてくる繊細な指の動きが、私の身体に嵐を呼び覚ます。あまりの気持ちよさに、私は、ただ、身体を固くしているしかなかった。

 ガチャと、ドアが開く。私は、ギュッと目を閉じた。目を瞑っていれば、起きた事を無かった事にできるかのように。石のように硬くなって、何も感じないで、何も見ないで、何も知らないふりをしようとした。

「お飲み物をお持ちしました。」



続く

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    2009

05.28

狭間に・・・8

狭間に・・・1から読む



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 ぐいっと引っ張られ、極限まで薄くなった布地の下に冷たい刃物が滑りこんでくる。あっと、声に出して言う暇もなくパチンと閉じ合わされたハサミの間で、細くなった布地は断ち切られてしまっていた。張力が無くなった下着が、だらりと下がって肌の上に落ちる。
 慄然とする現実。切られてしまった…と云う、現実が、床を見つめる目の中に広がって来る。甘い押し問答も無く、やさしく焦らされることも無く。ぐいっと引っ張るだけで私の下半身は、何一つ覆うものが無くなっていた。

 自分の姿勢が、どうやっても何も隠す事が出来ないものだという事はよく知っている。うつぶせに尻を突き上げた身体は、いくら、脚を閉じ合わせても何も隠せはしない。急にやって来た全てを晒しているという恥ずかしさが、ポンと私を、崖の下に、突き落とした。

急降下。

 軽く、ダイブ。快感がスライダーのように滑り落ちてフアンッと、身体を宙に浮かせる。

 「たまんない。」

 わざと蓮っ葉な舌足らずのセリフを、音に乗せて見る。私が何をしているのか気がついた彼は、くっくっと、押し殺して笑った。

「たまんないなぁ。・・・そんな、とこが。」

 それから、何度も何度も触れるか触れないかの距離を保ちながら、撫で上げてくれる。

 彼は、私のスカートを一度降ろすと、椅子から、滑り下りて、私のそばに膝をついた。新たな縄で、今度は膝を椅子の足に縛りつける。ぐいっと引っ張って、ひざの内側を、椅子の脚の外側になるように押し付ける。それは、考えているよりも大きく足を開く事で、それが、また私を落ち着かなくさせた。
 四肢を椅子に縛りつけられて、私はもう、なにも抵抗できない。その事を確かめようと身体を椅子から浮かしてみた。わずかに腹が浮く程度、ぴったり貼りついた、身体がはがれる程度。そんな不自由さを楽しんでいると。くすくす笑いながら彼は立ちあがった。

「何か飲み物を注文するよ。なにがいい?」

 え?注文?

「なにがいい?」
 椅子に座りなおした彼が、メニューを開いている気配がした。私は、椅子にうつ伏せに縛りつけられていて、起き上がれない。飲み物を飲めるような体勢じゃない。いや、そんな事は全く問題じゃなかった。注文するという事は、店員が部屋の中に入ってくるという事だ。椅子にうつ伏せになって起き上がれない私の格好を見るという事だった。

 私は少なからず、パニックになった。彼の前でだけこうしているのだけでも恥ずかしいのに、そうしている自分を全くの赤の他人に晒すという事は考えても見なかったからだ。見せる事に私は全く興味が無かった。だから、それをしたいと思った事がなかった。しなければならなくなるなんて考えても見なかった。

「いや」

「ん?」

「人を呼ばないで、見られるのは嫌。」

「ああ、そうか。」

一瞬の沈黙。不安。安堵。ないまぜになった恐怖。

「ん、そうだね。」
    ・
    ・
    ・
    ・
「けど、君には選べないだろう?」



続く
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    2009

05.26

狭間に・・・7

狭間に・・・1から読む


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 言われるままに、また、膝をずらして行く。吐息が熱く、頭の中が燃えるようだ。足を開くだけで何でこんなに恥ずかしいの。ただ、押しつけるように乗せられただけの彼の掌が、身体の中心に向かって、快感を呼び覚まして行く。
 足を開こうとする身体の動きが、頭の中で、火花のようにスパークしてくる。足の付け根を男の中指がゆっくりとなぞりあげる。ぞくぞくっ、とするような、身体じゅうに広がる快感に、私は、また、大急ぎで足を閉じた。閉じたり、開いたり、それが、だんだんとうねりを作りあげ、そして、感じてしまうのだ。

「こら、言う事をきかないな?悪い人だね。」

「・・・言う事を聞かないなら、お仕置きしないとな。」

 ああ・・・、私は、その言葉を頭の中で反芻した。何度も何度も、味わいつくそうと。しゃぶりつくそうと。
 優しく動いていた手が、いきなりぐいっとストッキングを引っ張った。繊維が引きちぎられ、ビリビリビリ・・・っと、裂けていく。
 蒸れて、汗ばんだ素肌に、空気が直に触れる。伝線して、いく、ストッキングの立てる音が煽情的に胸に響く。私は、ギュッと膝をつぼめて、そうさせまいとする。彼の手が、乱暴に動いて、私の肌を覆う、それを引っ張った。

 男にストッキングを破られる。引っ張られて無理やり脱がされる。ぼろ布のようにわずかに残ったその隙間から、掌が入りこみ、ぴったりと足をなぞりあげる。
 その行為の間、私は、身体を椅子のシートに押し付けて、椅子の足を握り締めて堪えた。
 耐える?
 違う。いや、違わない。男の与えた行為の、あまりの、刺激に、私は、くるめきながら、引きずりまわされ、自分の中を吹き荒れる、感覚を味わいつくそうとして、必死に、椅子にしがみついていたのだ。
 身体も、心も、その感覚も、どこかへ吹き飛ばされそうになっていた。

 素肌の上を乱暴に、掴みしめ、傍若無人に撫で廻した手は、最後に、一枚だけ残った下着のへりの所へ戻って来た。ぴったりと身体に貼りついている、薄い白い下着。濡れて、形も露わに貼りついているだろうそれを見られている事が、じっとしているのも耐えがたい恥ずかしさになって、私を突き上げて来た。
 ひっくり返した掌の、人差し指の先が、するりと、パンティの縁を越えて潜りこんでくる。ぐいっと引っ張って、ぱちんと離す。

「濡らしてるね。」

 言わないで、そんな事、わざわざ言わないで。それとも言って欲しいのか。言葉は、甘い恥ずかしさだけでなく、みじめな気持を呼び覚ます・・。気持がすっと冷えて、私は起き上がろうと椅子をギシギシ鳴らした。
 彼の手がもう一度、下着の縁を引っ張った。

「切るよ。」
 
 切る?言われた事が頭にしみこんで形を成すまでに、時間がかかった。下着を切る?そんなことしたら、帰りはどうするの?下着を履かないままで帰らないといけない。ストッキングはすでに残骸になって、床にぶら下がっている。

「いや、切らないで。」

「ふむ、脱がしてほしいの?」

 その通り、帰りは、ちゃんと、服を着て帰りたい。切らないで。切らないで。そう思いながらも、じゃあ、脱がして欲しい、と、言葉にする事は難しかった。舌の上を、頭の中を、言葉が、行ったり来たり、恥ずかしい事を言わされようとしている。その事態に、思いが乱れた。

 恥ずかしい事を言う事ではなく。相手が言わせようとしている事。それを受け入れようとしながらも自分が反発している事。そんな位置に、自分達がやっと辿り着いたのだという事。混乱が、私の中へ、奔流となって溢れ出していた。
 長い、長い、夜に、恋焦がれた場所へ、今、自分が辿りつこうとしているのだという、想いが急激に、突き上げて来て、私は目が眩んだ。


続く
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    2009

05.25

狭間に・・・6

狭間に・・・1から読む


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「分からないのがいいの?」
「ええ・・・それに・・・恥ずかしい。」
「恥ずかしいの・・・好き?」
「嫌・・・・好きじゃない。」
「よかった。」

 彼が、ちょっと笑った気配を感じて、私はほっとする。何でほっとするのか分からないけれど。彼の低い声が、彼の胸の中で震えるのを感じて、それで、私は安心した。そんな事で安心する自分がちょっとおかしかった。腹ばいになって、椅子に腕を縛りつけられて、男に、尻を触られているのに、安心する自分が、おかしかった。

 そう、乗せられていただけの手がゆっくりと円を描くように動きだしていた。彼の手の温かみが、広がって行く。お尻の上全体に、身体の上全体に、心の隅々に。
 ふっとその手が離れると、スカートの下へ潜り込んできた。テロンとした生地のフレアスカートは、男の手をなにもふせぎはしない。ストッキングの網目の手触りを楽しむように、腿の付け根から尻の上を撫でまわす。それから足の間に潜り込もうとする。隠しておきたい場所へ。ぴったりと閉じた足の間へ。

「手が入らないな。」

 入らないとは言っても、その場所に触れられるのがガード出来る訳ではない。膨らみや谷間の上を指先は、気まぐれに、移動した。熱くなり、膨れ上がっているだろう私の身体はそれだけで、気持ちよさに震えた。

「触りやすいように、足を広げて。」

 私は、息を呑む。相手が触られるように、足を広げると云う行為を、自分からすると云う事に。羞恥がこみ上げてくる。広げていても、閉じていても、何も変わらない。変わらないはず。そう言いきかせても、羞恥は、広がるばかりだった。私は、喘ぎながら、膝の位置をずらした。

「もっと。」

 膨らみを摘まんだり、擦ったりしながら男が要求する。その要求に応えて、もっと触りやすいように足を開く。まるで、淫売のように。自分を貶めて行く。それでいて相手の態度は、静かで、手の動きは優しい。指の先をマーブル模様を描くようにゆらゆらと揺らめかせながら、裏返した爪の先でストッキングの縫い目を辿り、円を描く。

 多分、濡れて来ている。布地は湿ってきている。息が弾んでくる。身体が熱く火照って来る。それを知られてしまっている。知られるように自分から差し出したのだと思うと、それが来られ切れないほどに恥ずかしかった。我知らずに足を閉じようと、力を込めてしまう。

「こら、閉じちゃだめだ。」

 手の動きが止まる。彼は掌を、覆うように、その上に乗せた。
「開いて、もっと、大きく。」

「もっと」

「もっとだ。」


続く
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    2009

05.23

狭間に・・・5


 キラキラと光る水の流れが落ちてくる。ホールの前の滝が、水しぶきを上げていた。自分の中に充満して弾けそうになっている音楽に身を任かせ、ぼうっと立ちつくす。アンコールの拍手で手が腫れてしまった。ギュッと握って、ちょっと、腫れぼったい感触を楽しんだ。

 手が伸びて来て、腕を掴むまで、その人の存在に気がつかなかったのは意外だった。はっと思って振り返ると、もう、その存在感に、圧倒されていた。何度も思いかえし、何度も、反芻したその掌の熱さ。

「どうして、電話をくれなかった?」

 自分の心臓の鼓動が、急に大きくなったのが分かる。それが自分に聞こえるのが。
 私が電話をして来るのを当然のように待っていたの?本当に?ちょっと眉を寄せて、いぶかしげに覗きこんでくるその表情を見つめていると、責められて当然のような気がしてきた。けれど、私と彼は、ただ、カウンターの前ですれ違っただけではなかったのか?

「君は、何も感じなかったのか?あれきりでいいと思ってたの?」

 語尾がかすかな苦痛に掠れて消えた。この人は、すれ違っただけの私を失ったと思っている。惜しんでくれている、私は、腕を掴まれただけの相手に何もかもゆだねきって身体を預けていた。それが当然のように。初めから決まっていたかのように。
 電話したかったの。でも、出来なかった。怖かった。扉を開けるのが。そして、いつか、それを閉めるのが。言葉にしなかった思いが、身体の震えになって、溢れた。

 後から何度思い返してみても、私も、男も、自分達が求めていたものを一度も口にしなかった。なぜ、そんな事が出来たのだろう?どうして私を見つけたの?分からない。ただ、見つけた。そして、間違いないと思ったんだ。お前も感じただろう?不思議に思っただろう?見つけて、捉まえた。そして、失いたくないと思った。

 彼の詰めていた吐息がこぼれた瞬間、ぐいっと腕を引かれた。私は、まろびながら、相手の腕の中につんのめった。

「今度は、黙って行かせないよ。」

 ドアを開けて、後悔するだろうに。必ず、後悔するだろうに。



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「その背もたれの無い方の椅子にお腹を乗せて。」

 私はためらう。そうすると云う事は、彼の物になると云う事を受け入れるって事だ。事が始まってしまったら、嫌は通らない。私が恥ずかしがる事、嫌がる事、苦痛に思う事。そんな事の上を綱渡りして行くために、私たちはここにいる。

 3度食事をし、3度目の日にキスをした。4度目の今日。駅前で待ち合わせ、手をつないで雑踏の中を横切り、入ったカラオケの個室の中で、私は、カバンの中から縄を取り出した彼の前に、いた。

 このためらいと、不安が、私の望んでいたものなのだろうか。できるか、出来ないか。本当に自分はMなのか。その迷いを振り切ってシートの上に腹ばいになった。床についた、右手を彼が掴み、手に持った縄で椅子の足に縛りつけた。そうして反対の手も・・・。

 黙って縄を巻き付け、結び目を作る手慣れた彼の手の動きと、しん、と、変わらない彼の表情を見つめる。ギラギラした男の欲情のかけらもない、静かな横顔。本当に?本当に私を欲しがっているのだろうか?3度の逢瀬に、お互いに交わした言葉は、目の前にいる男とは何の関係もないような気がしてくる。
 目を閉じて、男が、腕を掴んだ、あの瞬間を巻き戻した。再生。リピート。コマ送り。一時停止。腕を滑って行く縄が、男の掌のように肌に吸いつく。再生。リピート。コマ送り。一時停止。熱い塊が喉の奥からこみあげてくる。

 起き上がった彼が、私の身体の横へ背もたれのある椅子をくっ付けてから座った。お尻よりも少し下の方に、足を私の頭の方へ向けて。椅子の上にうつぶせになった私には頭を振りむけない限り、床と椅子やテーブルの脚や、そして、彼の靴しか見えなかった。彼の右手が私のお尻の上に乗せられる。

 スカートの上からとは言っても、びくっと、反応してしまう。心臓の鼓動がさっきよりも大きく、早く、リズムを刻むのが分かる。彼のぬくもりがじんわりと、何枚もの布を隔てて伝わってくる。私は、目を閉じて、彼のその手のぬくもりを味わった。ただ乗せられた温かい手の、私の主となるはずの手。息苦しくなり、口を開けて、空気を吸い込んだ。

「どんな気分?」

 どんな気分だろう。私は自分の気持ちの中を手さぐりする。どきどきと甘い不安。何をされるのか分からないって事が、もう逃げられないのだと云う事が・・・甘い。次に起こる事を待ち望んでいるようでいて、恐れている。その恐ろしさが甘い。そんなのって変だろうか。ぴったりと、とじ合わせた足の間が、充血して熱くなる。ギュッと力を入れるだけで、心地よく、自分が、欲情して来ているのが分かった。

 恥知らず。

 自分に向かって言ってみる。きゅっと、あそこに力を入れて、その甘い余韻が広がるのを確認した。

「怖いわ。」
「どうして?」
「だって・・・」

 言葉がのどに引っ掛かって、私は、つばを飲み込んで息を整えた。そうしている事を知られる事が恥ずかしかった。

「何をされるか分からないんだもの。」


続く
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    2009

03.23

狭間に・・・4



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 自分の感情を理論だてて分析し、並べて、整合性を求めたがる。あるべき姿にこだわって、正しいと間違ってるの間をうろうろする。けれど、根底にある「基準」が自分の感情では、正しさを求めても意味はない。隠していた「わがまま」が浮き彫りになり、まとってる倫理感との矛盾が、自分自身の中で争うからだ。
 長い間、行動規範にしてきた倫理感は、無視すると、恐ろしく居心地が悪い。時々、どちらが自分の望んでる事なのか、どうするのが自分の本当の性格なのか・・・と、分からなくなる事がある。
 習慣通りに振る舞うと、自分が望んでいるものは手に入らないのが分かっているのに、繕う方が楽なのだ。自分が「正しくあろう」「人に優しくしよう」として失ったものが、いつまでもいつまでもじりじりと、身体の内側を焦がすのが分かっているのに、どうして、習慣を捨て去ることができないのだろうか。

 そうして、気がつかないうちに、私は、自分の中の焦燥に捉われてゆく。最初に自分で引いたラインを踏み越えて、行動が破たんし始める。望んでいたもの。こうありたいと願っていたもの。少しずつ育ててきたもの。大事な物をすべてひっくり返し、叩き壊して、もう、自分のものではないと納得させようとする。

 小さな子供が、欲しい物を前にだだを捏ねるように・・・。

 「だだを捏ねる子供をあやしてもらいたがる欲望。」それが私の行動を支配し始めると、並べていた理論も、いごこちのいい位置を守ろうとする意識も、誰かを愛していた感情もどこかへ行ってしまう。

 破綻が始まる。

 受け止めてもらいたい。思いっきり相手を傷つけて、ひっぱたかれて、揺さぶられ、引き裂かれ、むさぼり喰われてしまいたい。考えたり、迷ったり、判断したりすることを、何もかも相手に委ねて大声で泣いてみたい。逆らって、もがいて、押さえつけられて、正しく選び取ることを放棄し、悲鳴をあげ、泣き叫けびたい。
 混沌とした自分の状況を、相手の秩序に任せて、甘い言葉と痛みの中に、何もかも忘れ、力を使い果たしてぼろぼろになった私を、なんでもない、大丈夫だから、と、優しく揺すってくれる相手・・・。
 どうして、そんな時に、欲情するのだろう。ただの帰属意識。ただの依存。ただの甘えだったら、もっと簡単なのに。優しくしてくれる相手に、もしくは支配しようとする相手に従うだけだったら・・・。

 私は、布団を頭の上まで引っ張り上げた。泣きそうになってるのに、涙は出ない。喉の奥に詰まったものが突き上げてくるのを感じならが、私は、自分のしゃくりあげる声を聞いていた。


続く
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    2009

03.18

つまづき


「さびしいのが似てる・・・
優しくされるのが苦しいのも
そんな自分が愚かだと知ってるのも」

新聞紙の縁に走り書きされた鉛筆の文字に
動かされた気持が残ってた
なぞって、読み返して、声に出して呟いて
辿る 繰り返す 迷路を曲がる
階段を昇り 窓を開けて 乗り出した宙
振り返る 立ち止まる
私はここにいるはず

ぽんっと、とんじゃダメだよ
こだまは帰ってくる物だから








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    2009

02.12

狭間に・・・3




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 ベッドヘッドに掛けた縄で、手首をひとまとめにして縛られた。緩く回されて、締まらないように縄止めしてある縛めは、お飾りに近い。けれど、その飾りがあるだけで、私は満足だった。自分で、縄を引いて、その飾りの存在を確かめる。愛撫にすっかり火照った身体を、うっとりと、夢心地にまかせて伸ばし、くつろいだ。
 うつぶせになった、足首に手が掛る。ぐいっと、引っ張られて、足にも縄が巻きついてきた。どうやら、今日は、足も縛るらしい。それは、結構、珍しい事態だったので、私は、少しわくわくする。ちょっと逆らって、少し喘いで見せて、それから、広げられた足を閉じようと試みる。足が閉じられない事を確認して満足するために。

 人型にベッドにくくりつけられた私は、ちょっとだけ不自由になった身体をもう一度伸ばしてから、もぞもぞと、居心地のいい場所を探して蠢いた。
 ぱらり・・。身体の上をゴムチューブを束ねた、お手製の簡易バラ鞭が移動した。房が短いので、あまり音がしないし、扱いやすいので、最近の彼のお気に入りだった。叩く場所によっては、かなり痛い。場所によらなくても、強く打てば、しっかり痛い。
 部屋に流れていた音楽のボリュームが少し上げられた。おや、本気で叩くつもりらしい。たまに気が向くと、彼は、そう云う事をする。
 ビシッ・・・。第一打目が、身体の上に振り降ろされる。まだ、素の状態の私は、その痛みに軽くすくんだ。

 どうして。どうして、打たれたいと思うんだろう?それは、私自身、いつも不思議のタネだった。痛みは「痛み」で、それ以上でもそれ以下でもない。私たちの関係では、特にそうだ。従うことも無く、支配されてもいない。私が望み、彼が与える。望んで差し出した身体には、縄は、あっても無くても同じだ。
 それでも一回目のターンの間、私は、身体を捻ったり、叫んだり、もがいたりする。実際に痛くて、ゴムチューブが身体に当たる乾いた音を、楽しむ余裕もない。
「いたっ・・。」
 小さな悲鳴。痛い、痛い、と、泣いて見せて、身体を捻って、痛みを散らす。ほどほどの打擲だから、わずかでも動けると云う事は、痛みを耐える事もたやすくなる。身体中がひりひりと赤剥けになってくる感覚が、徐々に広がって行く。

「おしまいにする?」

 なぜ、そんな事を訊くのだろう?私は必ず「続けて欲しい。」と、答えるのに・・・。それでも、答える前に私は必ず躊躇う。痛いのには間違いなく、なぜ続けるのか、分からなくなる。やめてと言って、終わりにしてしまえば、もう、痛い目に会わないですむ。それでも私は、必ず「もっと」と、答える。

 2回目のターンはさっきよりも強い。叫ぶ声も、大きくなって、身体は勝手に踊り出す。私はこずるく、あまり痛くない場所へと打擲を誘導しようと身体を捻じる。毎回、鋭い痛みに泣くよりも、ちょっと、休憩が入った方がいい。もくろみは、場所を変えようとする彼の意図とすれ違い、大きな悲鳴を上げる羽目になったりする。
 もう、ちょっと。もうちょっと。後、少しでおしまいだから。これは、そんなに長くは続かないはず・・・。
 2、3打、打っては、その赤く火照った場所を、なぞるように掌が滑る時、くすぐったいような感覚が高まって、打ち寄せてぶつかり跳ね返る。波しぶきが砕けて引いて行く時には、裏返ったそれは快感へと姿を変える。心地よさに酔い。陶酔に揺れる。

「おしまいにする?」

 迷う気持ちがない訳じゃないのに、私は結局続ける事を選ぶ。叫ばなくてはならないのが分かっているのに、続ける事を選ぶ。叫び声が湿ってきて、泣き声混じりになるとしても、やっぱり続ける事を選ぶ。

 3回目のターン。痛みが火花のように散って、その余韻が消えていくのを楽しむうちに、その向こうに、身体の反応が変わって来るのが分かった。もしも、本当の鞭だったら、こんなに簡単に、見えてくるはずはない。私は本気で泣き叫び、二度と打たれたいと思わないはずだ。心の底では、そう確信しながらも、最初のターンの痛みはもうそこには無い。
 すっかり腫れあがった身体に、強く打ちつけられるゴムチューブは、絶対にさっきよりも強いはず。もう、おしまい。もう、終わり。やめて。もう、やめて。心の中で繰り返しながらも、身体はもう逃げない。のけぞりながら、貪欲なまでに、痛みの向こうに高まってくる物を味わいつくそうとする。

 ぱんっと、弾けて。今、弾けて。ほら・・・・みえる・・・はず。

 くるり・・。指先で廻した名刺の上に、澄まして並んでいる、男の名前。この男が私の身体に手をかけたら、私は平静ではいられないに違いない。恐怖で、固くなり、与えられた痛みに逃げ回り、無様に泣き叫ぶのだろう・・・。
 目を閉じた、その闇の向こうにある物を、私は欲しいと思っているのだろうか。痛みは、ほどほどで無くても心地よいものだろうか。そんなはずはないだろう。「痛み」は、やっぱり「痛み」。心地よいものであるはずがないのに。私は、苦笑して、自分の中にある思い出を、そっと押しやった。


続く

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    2009

02.11

狭間に・・・2




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「もし、気が向いたら。」

 男は、そう言って、名刺を差し出した。
 素性の知らない女に、こんな事して、平気なんだろうか。一瞬、そう思ったほどに、ちゃんとした肩書の名刺だった。そう思ってから、自分が、自分の事を、不用意に接触するのが危険な女だと、位置付けている事に思わず苦笑した。今までは、ずっと、私の方こそ、知り合う男に用心していたのに。

 家に帰って、ブラウスを脱ぐと、掴まれた腕に赤く男の指の跡が残っていた。指でそっとなぞると、鈍い痛みが甘く甦る。
 温かい風呂に、ゆっくりと浸かり、髪を洗って軽く乾かすと、さっき考えていた通りに布団の中にもぐりこんだ。

 眠れない夜に、布団の中に居る時の、あのしんどさはどこから来るのだろう。不安が凝り固まって実体化し、胸の上に乗っているような重苦しさ。じっと同じ姿勢でいられなくて輾転反側する。闇が、たわんで、縮んでくる。私を押し包むように。反対に部屋の四隅が遠ざかる。身体が布団に沈み込んで行く。歯を噛みしめて、シーツにしがみつく。その息苦しさは、起き上がらないと消えない。
 耐えきれず、諦めて、PCの前に座る。モニターの灯りを見つめていても、いたたまれない焦燥感や恐怖はあまり変わらないのだけれど・・・。その方がどこかしら楽なような気がしてしまう。胸の上に乗っていた不安が、背中へ移動するだけなのに、不思議だ。
 ペーパーウェイトに使っている剣山の上に、掌を乗せて、ゆっくりと押し付ける。自分でコントロールする「痛み」は、なぜ、痛みとして認識できないのだろう?手を持ち上げ、ぽんぽんと自重に任せて打ちつけると、先端が鋭くなったと感じる刺激の中に、自分の中に重苦しく固まっていたものが溶けだして行く。薄く挽く剃刀の下の白い肉に盛り上がる赤い血のように。現実感が戻って来る。私はどこへ行っていたのか・・・。ずっと、ここに居たはずなのに。

 だが、今夜はそんなあれこれについて考えなくてもいいだろう。潜りこんだシーツの中に、自分の温もりが溜まって行くのを待ちながら、私は、さっき起こった出来事を反芻した。腕に残っている、指の感覚とともに。

 「もし、気が向いたら。」

 気持は最初から、そっちへ向いていた。もしかしたら・・・。もしかしなくても、きっと。目を閉じて、そう言った相手の顔を、思い出そうとしてみる。だが、すでに、彼の顔の記憶は、曖昧になっていた。暗いバーの中で、相手の顔などよく見ていなかったせいもある。けれど、あのぬくもりは憶えている。もたれかかった男の身体の、服の下の硬い筋肉。
 男の事など何も知らないのに、その腕の中で、泣き叫び、そして、しがみつく事を考えて、私は身体を熱くしていた。
 ほんとうにそうなのだろうか?彼の言う気が向いたら・・・は。
どこかしら、否定して、消し去ってしまいたがっている。いいや、それ以上に、自分がそれを希っている事が怖かった。選んでしまうと、もう、後戻りはできないような気がした。偽っていた欲望が、ぬっと顔を出した。その熱さに私は、焼かれようとしていた。


続く
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