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    2018

04.17

おしおき自販機

テーマ
「2018年8月
東京23区のどこか
あなた
偶然の出会い
そして
見つからない
しかし 」


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5101.jpg


 あの娘、さっきもすれ違った。
 丸いくるみボタンが三つついた前開きの白いノースリーブのブラウス。くるりと丸い衿がほとんど素顔のような化粧の薄い頬に似合っていた。赤い八枚はぎのフレアスカートが角を曲がる時にふわりと広がる。学生のような白い三つ折りソックスにリーガルのローファー。そして、高い位置でくくられたポニーテールに赤いリボン。汚れない肌色のようなトートバックからは、隠すこともなく、見慣れた道具の取っ手が見えている。鞭やパドルを作らせたら業界では知らぬ者のないブランドの間違いようのない取っ手。分からないものには分からない。けれど、分かるものには分かる仲間の印。
 少女のようだ。本当の少女ではないけれど、一見すると十代のようにみえる。まつげの長い大きな瞳が白目との境をくっきりさせてキラキラ光っていた。だが、くるりと方向転換する時にまとわりつくスカートが浮かび上がらせるヒップのラインは、彼女はもう少女ではないと告げていた。
 一番高い位置に昇った太陽が、彼女の足元の影を小さくして真っ白な陽射しの中なにもかもをくっきりと照らし出している。住宅街のわずかな傾斜の坂道が、夏の暑さにすっかりまいっている中年の私の足を重くしていて、軽やかに坂を降っていく彼女に追いつくすべもなかった。

 ため息をついて、先週のオフ会で集まった、さえない仲間内でこっそりと回されていた四角いメモを開いた。もう一度道順を確認する。メモは、薄い色の鉛筆で書かれ、その線は細く頼りなく、何度たどり直しても、目的の風俗店を見つけることは出来なかった。
 そんなもの本当にあるわけ無いだろう。大方の友人は懐疑的で、それでも、そのメモは廃棄されず、何度も何度も色んな場所で回されて来たらしい。
 薄暗い照明の場末の飲み屋で、本当の欲求を押し隠しながら、もてない人生を歩いてきたネットの友人たちは、そのメモを投げ出すと諦めたように安い焼酎をあおった。
「誰もその場所に行ってみたこと無いのかい?」
 私のおずおずとした質問に、いい加減酒の回った友人たちは、手を振り笑った。
「そもそもこの駅っていうのはどこの駅なんだい?東京二十三区の中だって言うんだけど、それが分からなきゃ探しようがないだろう。雲を掴むような話で、ネバーランドを探しているようなもんさ」
 私は、そっと周囲の友人の顔を盗み見た。私はその駅の名前を知っていた。いや、そのメモの駅がそこだと確信があったわけではなかった。ずっと昔に、この世界の重鎮とまで言われた先達の男性と話した時に、あの辺りにそういう場所があるという噂を聞かされた記憶があったのだ。それとこれを足し合わせて、私は、今、その店を探すためにこの道を歩いていた。
 やっぱり夢物語なのだろうか。周囲は高い塀をはりめぐらせた住宅地でとても風俗店が存在するとは思えなかった。同じ角をもう一度曲がった時、登っていったはずのさっきの女性がくだってくるのが見えた。
 声をかけるのは今しかない。
「あのう……」
 すっかり汗の滲んだ半袖の麻のシャツに灰色のスラックス。くたびれた墨染の中折帽子。こんなに綺麗な女性にあてもなく声をかけるなんて、不審者と間違えられたらどうしよう。私の胸は緊張と動悸に震えた。しかも、探している店から言えば私は通報されてもしかたのない不審者ではないか。
 しかし彼女は、声をかけられても、不安な様子も困った様子も見せなかった。じっと私の顔を見てから、にっと笑った。
「おじさん、さっきもすれ違ったよね。えーと、お兄さんの方がいいのかな」
 それから、ちょっと困ったようにくすりと笑った。
「もしかして、おじさんも同じものを探しているの?」
 そして、私の手にしたメモを指さした。
「自販機だよね。お尻叩きのおしおきの自販機」

 もう一度、ふたりで坂を登ると学校の裏手に出た。大きな楠の木が緑の枝を茂らせている丘の上にペンキが剥げた木のベンチがふたつ並んでいる。私と彼女は別々のベンチの端っこに座った。連れではありませんよ……と、いう彼女の意思表示なのだろう。私は、すでに湿っているハンカチを取り出すと首筋の汗を拭いた。それから、登ってくる途中にあった自販機で買ったコーラのペットボトルを開けた。まだ冷たい。シュワッと涼しそうな音が耳に響く。彼女は大きなカフェオレのタブをカチンと折るとゆっくりと缶の蓋を開けた。そして、白い喉を見せて、ごくごくと飲み干した。
「私ね。その炭酸の蓋を開ける音って好きよ」
 彼女は、ポニーテールからこぼれ落ちた後れ毛をうっとおしげにかきあげながら言った。
「何度も探したの。学校の裏にあるはずなのよ。でも、見つからないの」
「あなたはそこに行ったことあるの?」
 半分だけ飲んだカフェオレの缶を横に置くと、彼女はベンチの縁に手を置いて足をぶらぶらさせ始めた。
「ううん。噂を聞いただけ。友達にね」
 そして、ちょっと恥ずかしそうに笑った。恥ずかしいのは私も同じだった。いい歳をした大人の私が、お尻を叩かれるための自販機を探しているなんて。誰にでも打ち明けられることではなかった。
「よかったら、その話、教えてくれないかな。私はよく知らないのだよ。電話ボックスみたいなものだって聞いたのだけど……」
「うん、そう。そうなの。ちょっと大きな電話ボックス。中に入ると、オートロックで鍵がかかるようになっていてね、外からは覗けないのよ。お金を入れて、決まった場所にお腹を乗せて手足を置くと、するするってベルトのようなものが出てきて逃げられなくなるの」
「叩かれる道具ってどんな道具なの?」
「それね、選べないんだって。後ろでブーンって機械がうなって、鞭とかパドルとかランダムに出てくるの。ほら、むかしパブとかでレコードを聞くためのジューク・ボックスってあったでしょう?あんな感じ」
 私は自分がその箱に入っているところを想像して、どきどきと心拍数が早くなり頬が熱くなってきた。
 服は脱ぐのだろうか。多分指定はない。自販機なのだから買えるのは「お尻叩き」だけなのだ。もしも、最初に入ったらやっぱりズボンは脱ぐだろうな。そうじゃなきゃ、本当の痛みは味わえないだろう。服の上からじゃ。下着はどうしよう。素肌を叩かれるのと布一枚あるのとではぜんぜん違う。怖いから一回目は下着を脱がないほうがいいかもしれない。
 実のところ私は、本当に叩かれたことなど数えるほどしか無い。現実にはそういう場所はめったにないのだ。だから、S Mクラブに行ってみた。お尻を叩いてほしいというと、乗馬鞭で散々叩かれた。考えていたよりもずっと痛くて、私はやめてくれと叫ぶしかなかった。ののしられ、踏みつけにされながら泣いた。
 掲示板に素人の女性で叩いてくれる人を求めて掲示板に書き込みをしたこともある。叩く男と叩かれたい女の方が圧倒的に多くて、何の取り柄もない私のような男には、決まったパートナーなんて望むべくもなかった。
「痛いのかな」
 彼女はちらっと私を見た。
「痛くなきゃ、おしおきの意味ないでしょ」
 そのとおりだった。ネットのスパンキングサイトで、女性の膝の上に無理やり押さえつけられ、痛い痛いと叫びながら許されないで叩かれる様を、何度繰り返し見ただろう。酷くお仕置きされたい。真っ赤に腫れて座れなくなるくらいにと。でも、現実は乞い願っているほどには甘美ではなかった。私は、我慢ができずに、逃げ出し、もう二度とS Mクラブに行く勇気もなかった。
「機械だから、謝っても無駄。懇願しても無駄。決まった回数、決まった強さで叩かれるの。手首と足首は台に固定されちゃっているし、狭い箱の中きっと逃げ場も無いわ。お腹を乗せる台の上でただ身をくねらせて泣くしか無いの」
 一気に言うと、彼女はまっかになった顔をうつむかせて地面を蹴った。私たちはしばし自分たちの考えるそのシーンにひたっていた。ふりあげられる籐鞭が、ひゅうううんと空を切る音が耳元で鳴る。拘束されていても、身をすくめやってくる鞭を振り返らずにはいられない。叩かれるその場所を見ることなどできはしないのに。
「君のように綺麗なお嬢さんなら、自販機なんかじゃなくて、ちゃんとしたお相手がみつかるだろうに」
「もちろんそうよ。売り手市場だもの。探せばいくらでもお尻を叩いてくれる人見つかるわ」
 口紅を塗ってないのに紅い唇を尖らせて彼女は、首を振った。
「でも、その人達って、ほんとはおしおきがしたいわけじゃないのよ。ただ、私のお尻を見て、触って、叩いて、その後はセックス。突っ込まなくても、結局はセックスなの」
 男である私は、そこを指摘されると弱いのだ。なにしろ動画を見て妄想を膨らませれば、結局は自慰をしてしまう。おしおきという行為から、性の部分を削ぎ落とすことなど簡単にできるはずもなかった。それは、女性の受け手である彼女だって同じことだろう。それでも、おしおきなのだから、相手にセックスを求めないくらいは物事をわきまえているべきだと主張されてもしかたなかった。
「だったら、機械の方が良い?」
「うん、そうよ。貞操も危なくないし、男の人とめんどうな駆け引きもしないでいいでしょ?」
 女は飲み終わった缶コーヒーを足元に落としてぎゅううっと踏みつけた。そして、その缶をベンチの下に蹴り入れる。ぼくは、あっけにとられて彼女のその行為を見ているしかなかった。
「おしおきしたい?」
 そうだよ。それは、悪い子のすることだよ。
「おしおきしたい?」
 彼女の真っ黒な瞳が迫ってきて、ぼくは、頭がくらくらとしてきた。遠くで下手っぴいのトロンボーンのロングトーンの音がしていた。学校の校庭では、汗をかきながらボールを追っかけている生徒たちの掛け声が響いている。私は、普段は、喉の奥に詰まっていて口に出せないでいるものを必死に押し出した。
「おしおきされたい」

 彼女は、バックを持ち上げると、校庭を走るほんとうの子どもたちの方をじっと見つめた。
「密封した箱の中でね、自分の欲求と向き合うの。叩かれるのは私が、叩いてほしいから。悪い子だったからとか、いい子だったからとかどうでもいいの。機械は、私がどんな反応をしようと何も考えない。私が泣いても、叫んでも、もがいても、反省していい子にしなさいとか、がまんしなきゃだめとか、次に悪いことしたらもっと酷く叩くからねとか、いろいろ考えないの」
 彼女の声はだんだん小さくなって最後はささやくほどになっていた。
「私のこといい子だから好きとか悪い子だから嫌いとかも考えないの」
 一息つくと彼女は、口の端だけで笑い、それから、帰るねと言うと踵を返した。赤いスカートが広げた傘のようにふわありと広がり、それから、ポニーテールがぽんと弾んだ。駅に向かう坂を弾むような足取りでくだっていく女性を僕は黙って見送った。
 夕方の風が楠の木を揺らし始めている。いったいどれほどの間、私たちはここでぼんやりとお尻叩きのおしおきの自販機の事を考えていたのだろうか。真っ青だった空は色が薄まり水色の広がりに白い雲を浮かべていた。
 私は、立ち上がってかがむと、ベンチの下の土に汚れた缶を拾った。ちょっと道を戻れば、さっきこれを買った自販機があって、そこにこれを捨てるための回収ボックスもあるのだった。誰も見ていないけれど、私は、そこにこれを捨て、自分のペットボトルも捨てて、いい子のふりをするのだ。
 機械は缶を捨てていった彼女も、拾って回収ボックスに入れた私も、同じように扱うだろう。それでも、これをそのまま捨ててはいけないのが私なのだった。帰りに駅前の焼鳥屋で串を買って帰ろう。次にここに来る時は、きっと、風はもっと涼しくなっているだろう。そう考えながら、私は、ポケットに入れてあったメモを大事に財布の中にしまいこんだ。


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Category: スパンキング(novel )
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    2018

04.12

また明日



空を飛ぶ雲の白さをうらやんだりしません
なぜなら
私には重しが必要だから
どこまでも遠く飛ぶために

帰る巣と
羽を休める止まり木を持っている事以上に
幸せな事があるでしょうか

たとえその翼がまやかしであったとしても
空を飛ぶ時間を
切り刻む痛みが必要だとしても

風にのって どこまでもどこまでも
飛んで行くには
胸に抱いた重しが 重すぎるとしても

もう 時間を巻き戻そうとは思いません

眠るためのお守りに
約束された明日があれば

それでいい



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Category: 物語
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