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    2010

12.10

舞姫・4

舞姫・1を読む








 必死に顔を背けて、覆い隠したくて勝手に動きだしそうな手を握り締めて、身体を固くしたまま立ちつくす。視線が、肌を切り裂くようで、身動きするとバラバラになりそうで、恥ずかしさに叫び出してしまうんじゃないかと思いながら、じっと立ちつくす。
 時間がのろのろとすすみ、身体が、赤く火照り、汗が滲む。

「ワルツ。ホールドを取って。」

 え?脳が、言葉を理解するのに時間がかかり、私は、ただ呆然とする。

 そうだった。私は、ダンスを習うためにここにいる。綺麗に踊りたいがために、うまく踊りたいがために。全裸のままで何も身を覆うものがないままで、ポーズをとる自分を思い描く事が出来なかった。でも、服を脱いだのはそのため。ダンスを習うためなのだ。

 のろのろと腕を持ち上げ、ダンスを踊るために相手と組みあう姿勢を取った。胸を張り、背を伸ばし、腹筋に力を入れる。持ち上げた腕はやわらかく、相手に頼らず、一人でバランスを取る。頭の中で、美しい形を描き、それを体でなぞる。

「力を抜いて、案山子踊りじゃないぞ。」

 素肌に教師の手が伸びてきて、腰板を後ろから軽く押した。ひっ、っと、ひと声、喉奥で飲みこんで、ようやく私は跳びあがらないで、何とかその姿勢のまま留まる事が出来た。

「鏡を見て。」

 言われて、恐る恐る視線を上げる。磨きあげられた鏡の中央に全裸でワルツのホールド姿勢を取っている自分の姿が見えた。新たな恥ずかしさが襲って来て、私は、思わず、視線を逸らさずにはいられない。

「目を逸らすな。」

 冷静で平坦な教師の言葉は、私を、その姿勢に縛りつけるようだ。添えられた彼の手が、触れるか触れないかの位置をゆっくりと這い廻り始めた。ああ、嫌。触らないで。触らないで。心の声は、外に漏れる事なく抑え込まれる。
 撫で廻すような、愛撫するような、それでいて、さらさらとした乾いた手は、時々、私の身体をそっと押し、正しい姿勢へと導いて行く。鏡の中に映る白い身体は、黒い服を着た悪魔のようにいびつな男の手に捕らわれて心細げに立ちつくしている。心臓はどきどきと走りだし、火照る頬は、熱く燃え上がる。ふと、手が離れ、教師が動いた。離れ、そして戻ってくる間に音楽が流れ出す。

 ワルツだ。

 くるりと、教師が正面に来て、私の手を取った。ふんわりと身体が重なる。相手が服を着ている。そして、私は素裸なのだ。肌に触れる布地が痛いほどそれを思い知らせた。ギュッと目を瞑って、恥ずかしさを、振りほどく。
 ああ、このホールドもそうしてふりほどけたらいいのに。だが、私は柔らかく彼の腕の中に納まり、私の下腹は、彼の身体に軽く押しつけられた。

 軽く、押された。

 そして、私達は動き出した。音楽にのせて、ワルツのステップを踏む。リードのままに下がり、前に出る。ぐうんと沈み、そして持ち上がる。足を交差させ、横に滑り出る。

「ストップ。」
 
 はっと、我に帰ると、そのホールドが解けていた。

「今のところだ。ダウン、そしてアップ。うまくダウンできてない。それに、ホールドが固くてバランスをくずす。腕に力を入れるな、相手に体重をかけてるぞ。自分だけで立つんだ。」

「も一度」

 そう、もう一度、ギュッと目を瞑り、思い切って動き出す。忘れて、自分が裸なのは忘れるんだ。しかし素肌に触れている彼の手は熱く、背中が燃えるようだった。

「だめだ。ダウンを意識して、深く沈む。歩幅をもっとしっかりとって。」

 私は、喘いだ。足を開くと頼りなく足の間を風が吹き抜けていく。それだけでなく、パンティをつけていないだけで、不思議な感覚が足の間に送りこまれて来るのが感じられる。なぜ?私は何も望んでいない。身体が勝手に反応している。教師の服を着た脚が、私の素裸の脚を割って入りこんで来る。

 そして、教師の手が、わずかに正しいはずのホールドからずれた。私は、びくっと、止まってしまう。

「どうした?続けて。」
「嫌。手が・・・・。」
「そうだな。」

 捕らわれて、逆らえないまま、私は、必死に息を吸い込む。

「ダウンを意識しろ、うまくいかない度に手は下へ降りて行くぞ。」

 低く囁く、悪魔の声。
 何を言われているのか分かって、私の、心臓は跳ね上がる。正しく踊らないと彼の手はどんどんと下へ降りてくるつもりなのだ。崖っぷちに向かって、歩かされている。恥ずかしさなどにかまっている場合じゃない。相手のリードに身体を任せて、動きに気持ちを集中しようとした。
 くるりと、身体が廻り、視線の先に自分の白い背が見えた。そしてその背を這う男の手が。ああ・・見ずにはいられない。その手が、這い降りてくる先を。白い桃色の二つのふくらみとその間の谷間。
 身を守るために正しく踊る。意識しちゃだめだ。柔らかく。身体を預けるんだ。

 けれど、そう思えば思うほど、一瞬横切る自分の白い体を見つめずにはいられなかった。くるりと回る度に、這い降りてくる手。ゆっくりと、狭間に向けて這い降りてくる手を。

 ああ、嫌。やめて。助けて。触らないで、お願い。止まって。止まって。
 必死になって、正しい姿勢を保って、踊り続ける。今度はうまく行った。あ、だめ、失敗。また降りてくる手。そんな・・・嫌ぁ。もう、だめ。それ以上はだめ。

「どうした。集中しないと、想像している通りになるぞ。」

 ひぃぃ・・。私は、悲鳴を押し殺した。またひとつぶん。そしてまたひとつぶん。手が、降りてくる。さっきまで熱く火照っていた身体に、総毛立つような感覚が襲って来て、さっと鳥肌が立った。 手は、双球の割れ目を這い降りはじめていた。その行きつく先は、考えなくても知れていた。

 いやいやいやいやいやいや・・・・そんな。やめて。止まって。止まって。止まって。

 近づいてくる指。もう踊るどころじゃない。それなのに私はただ夢中でステップを踏んでいた。崖っぷちは、もう目の前。後は跳び下りるしかない。振りほどいて逃げる。そうするしかない。伸びあがり、沈み込む。身体が、浮きあがる。

 その瞬間、相手の手はぴったりと私の恥ずかしいお尻の穴の上に押し付けられていた。

 いやあああああああああああああ!!

 私は、声も立てられずに相手の腕にしがみついた。だが、教師はリードを止めようとはしない。

「踊るんだ。」

 くるり。くるり。くるり。廻る輪。鏡の中に踊る。串刺しにされて逃げる事も出来ず踊り続ける。見つめずにはいられない。禁断の場所へゆっくりと沈んでこようとする指をまといつけたまま踊り続ける白い身体を。
 私は、泣き、むせびながら踊った・・・。

 ただ、教師のリードのままに廻り続けた。


続く・・


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Category: 物語
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