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    2013

12.16

舞姫・5

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 何度目のレッスンだったのか、毎回、毎回、回数を、数えるのをやめた頃。ラテンのムーブメントの基礎を復習した。そのダンス教室の方針で、モダンラテンに関わらず、基礎のダンスはどれも踊れるよう練習するようになっていた。どちらかを選ぶのは上級に上がってからで、どちらも選ばずに10種目を踊り続ける人もいる。ただし、競技会に出るほどになれば、話は別だ。体力が続かない。
 ぴったりとくっついて、腰を押し付けてくる相手のリードに任せておけばいいモダンダンスと違って、ラテンでは、頼るのは、自分の右手を握っているパートナーの右手である。踊るのは、自分自身で、お互いの身体は、離れたりくっついたり、回ったり、お互いの顔を覗きこむようにして、身をくねらせてみたりするそれをリードするのはその握られた右手のみ。
 思い切りが悪く、男に愛を語りっける事など、露ほども考えてもみなかった私にとっては、ラテンは苦手だった。
ましてや、今は、丸裸なのである。腰をくねらせる体重移動もままならず、震える足を踏みしめるのがやっとの思いだった。お互いに目を合せ、身体で愛を語り合う。その愛情をどうやって表現していいのか分からなかった。

 教師は、最初、しつこいくらい私に、ルンバの基礎を繰り返させた。けれど、ちっとも私が踊れないのに、いい加減痺れを切らしたのか、違う方法を考えだした。

 教室の壁は上から下まで、全面が鏡に覆われていた。自分で、自分の姿勢や動きをチェックするためだ。そして、その鏡の上下を2つに割る形に、手を乗せる支えにするためのバーが張り巡らせてあった。男はそのバーに手を乗せるように言う。右と左の手をやや肩幅より広く開きバーを握らせたのである。そしてうんと身体を引き、手首と方と背中が弓のようにたわむように、足を開き、腰を突き出させた。
 その姿勢が、女の何を露呈するか、考えなくてもお分かりであろう。私は、腰を引っぱられたとたんに、きゃっ!っと、叫んで、そこにしゃがみこんでしまった内臓の一部のように花開きかけているその場所を、自ら晒すなんて。服を脱ぐ事すら、唾棄していた私にとって、そこを突き出す姿勢の事を考えるだけで、パニックを起こしてしまっていた。

「どうした。姿勢を戻すんだ。」

 真っ赤になった顔を打ち振る。そんなこと!そんなこと出来ない。

「出来ません・・・。」

 絞り出した声は情けないほどに力が無く、うちしおれている。しーんとした教室に、教師が鏡をコツコツと叩く音が響いた。額に落ちかかる前髪を右手で描き上げると男は、一歩下がり、平静な声で告げた。

「では、やめるか・・・。」

 教師にとっては、私が憧れていた芯の強い女性のエロティックに踊るダンスを私が踊れるかどうかは、些細なことでしかないのだ。だから、事ある毎に、彼はそれを持ちだした。「レッスンをやめる」と、言われると、私は、泣きながらも、続けてほしいとねだるしかなかった。彼に、それで、脅してるつもりがあったのかどうか分からないけれど・・・やめたからと言って、彼は毛ほどの痛痒も感じないのだ。実際、私のような小娘の裸を観たからどうだって言うのだろう。多少は嫌がるさまが、からかいがいがあり、悲鳴も聴けるだろうけど、だからと言って、抱けるわけでもない。黒い男は、憎らしいくらいに、私の身体を欲しがらず、私一人がじりじりと欲望に焼かれるような毎日を送っているのだ。

 それでも、私は、彼にダンスを教えてもらうためにここにいる。そして、声をかけてきたのが向こうである以上は、少しくらいは、私のダンスに興味を持ってくれてるはずだ。
 そして、ここまで、恥を晒して泣きながら必死にレッスンをこなしてきた私は、もう、後に引けなくなっていた。そんなことをしたら、今までの事は全て無駄になってしまう。恥ずかしさに耐えて服を脱いだことも、無垢な身体を彼に自由に触らせたことも。

 震える膝に力を込めて、私は起き上がり、バーを頼りに体重を預け、最初に支持された姿勢に戻った。胸は高まり、恥ずかしさに身体中が赤く染まっていたと思う。頬はほてり、心臓は口から飛び出してきそうだった。
 すると教師は、私の手首に赤いリボンの切れ端を乗せた。私は、涙で潤んだ目でそのリボンを見つめた。つるつるとしたサテンのリボン。1.5センチほどの幅で、柔らかくなんの力もないように見える華奢なリボン。そのリボンがくるりと手首を2度周り、同時に私の手首をバーに縛り付けたのである。
 私は息を詰めて、起こりつつある出来事を心の中で反芻する。今は、片手に回されたリボン。しかし、両方をくくられてしまったらどうなるのだろう。私にはなんの選択権もなくなり、相手のなすがままになってしまう。私は、思わず男の顔を振り仰いだ。
 反対側の手首に同じように、リボンを乗せて、男は私の顔を覗きこんで来た。

「どうする?」

 どうするって・・・。どうするって・・・。両手をバーに縛られてしまえば、素っ裸なのだもの、男のしたい放題だった。極端に言えば、そのまま鏡に押し付けて、犯されても仕方がない。けれど、男の質問は、その事態を、私に選ぶように促してくる。すべてを彼に明け渡し、なすがままに身体を預けることを求めてきている。
 私は、二度口を開け、ためらい、鏡に映る自分の歪んだ頬をちらりと見やった。どうしたい。投げ出して、走って帰る?ダンスを諦める?そうしたら、もう二度とこの男と踊ることもない。恥ずかしい思いもしなくていい。泣きそうなほど辛い事も・・・。
 キュン・・・足の間の性器がイソギンチャクのように窄まり、身体の中を不思議な感覚が突き抜けていく。私は私は、何を望んでいるんだろう。何を望むにしろ、望まないにしろ、選んだのは私。そして、我が身に起こるすべての事が、その私の選んだ結果なのだ。

「結んで・・・リボンを。もう片方も・・・右手と同じように。」

 だとだとしく、口から押し出されたつぶやきを、男は繰り返させることをせずに、ただ、黙って手首に巻きつけて結んだ。縛るというにはあまりにも形だけに見える赤いリボン。しかし、どんな楔よりも深く、私をそこに縛り付けた、私の行動を制限した、逃げられる道を自分で封じたリボン。
 ぎゅっと目をつぶると、涙がこぼれ頬を流れた。




続く・・

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Category: 物語
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